日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-SD 宇宙開発・地球観測

[M-SD39] 宇宙食と宇宙農業

2015年5月24日(日) 17:15 〜 18:00 106 (1F)

コンビーナ:*片山 直美(名古屋女子大学 家政学部 食物栄養学科)、座長:片山 直美(名古屋女子大学 家政学部 食物栄養学科)

17:30 〜 17:45

[MSD39-02] 宇宙農業構想から10年-今後の宇宙農業研究を考える上でアウトリーチの視点からの提案

*新井 真由美1 (1.日本科学未来館)

キーワード:宇宙農業, 火星, アウトリーチ, 総合学習

2005年の宇宙利用シンポジウムで山下らによって宇宙農業構想が発表されてから、2015年で10年になる。宇宙農業研究は、月や火星で100人規模が20年生活できるシステムを構築することを目標に掲げ、宇宙農業タスクフォースのメンバーを中心に、多様な視点で研究が進められてきた。例えば、物質の再生循環や好気高温堆肥菌生態系による生ごみの分解、樹木の利用、ラン藻を用いたレゴリス土壌の利用と、火星に持ち込む生物種や食材の候補、放射線生物学・医学的研究、昆虫食や低GL献立などの宇宙食に関する多岐に渡る研究である。
 火星における宇宙農業を想定した場合、その実現に向けて上述のように多くの研究要素と課題が見えてくる。つまり、宇宙農業に関する研究を行うことは、地球上での人間の持続可能な暮らしや食生活の見直し、加齢に伴う身体や味覚の変化、地球生物の極限環境への適応力の発見等、新たな知見と将来への対策を講じることにつながる。さらに、宇宙農業研究は、江戸時代の日本の持続可能な暮らしに智慧を得、合鴨農法、養蚕、日本食など、日本の素晴らしい伝統や文化を取り入れており、世界に発信する研究として興味深いと考える。
さらに、農業という分野は、中学校や高等学校における理科の物理・化学・生物・地学のすべての要素を含んだ総合分野であるため、縦割り型の知識の習得に終始しかねない高校生までの理科の知識を横断的につなげることができる可能性のある研究分野であり、なおかつ、教育的な効果も期待できる。
しかし、2011年の東日本大震災と福島の原子力発電所の事故以降、多様な分野の専門家が一堂に会して意見交換できる場である宇宙農業タスクフォースの会合の回数も減り、宇宙農業研究のコミュニティ全体像が見えにくくなった。それと同時に、宇宙農業研究を行える大学が全国にどのくらいあるのか、また、宇宙農業研究に携わる学生がどのくらい増えているのか、いないのかもわからない現状である。
 そこで、宇宙農業研究の今後10年を考えたときに、宇宙農業研究のアウトリーチをこれまで以上に強化していく必要があると考える。まずは、研究コミュニティの拡大と後継者育成のために、以下の5点を提案したい。
1.学校教育の総合学習や環境教育(日常の我々の暮らし)と宇宙農業研究のつながりを示す。そして、中学生・高校生の世代に研究の重要性と魅力をPRし、宇宙農業研究に興味を持ってもらうような機会をつくる。そして、若者の参画こそが重要であることを伝える。
2.そのために、宇宙農業研究の全体像が見える資料を作成する
3.また、宇宙農業研究が行える大学や研究所の一覧をつくり、ホームページ等で公開する。
4.宇宙農業研究のゴールを明確に示し、研究者コミュニティの一体感を醸成する。
5.アウトリーチチームを結成する。