日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS24] 宇宙における物質の形成と進化

2015年5月27日(水) 14:15 〜 16:00 A02 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*橘 省吾(北海道大学大学院理学研究院自然史科学専攻地球惑星システム科学分野)、三浦 均(名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科)、大坪 貴文(東京大学大学院総合文化研究科)、本田 充彦(神奈川大学理学部数理物理学科)、座長:大坪 貴文(東京大学大学院総合文化研究科)

15:30 〜 15:45

[PPS24-13] 原始惑星系円盤の化学反応と、H2Oスノーラインの分光観測による検出可能性

*野津 翔太1野村 英子2石本 大貴1 (1.京都大学大学院理学研究科宇宙物理学教室、2.東京工業大学理工学研究科)

キーワード:H2Oスノーライン, 原始惑星系円盤, 化学反応計算, ダスト表面反応, ダストサイズ成長, 分光観測

原始惑星系円盤において、中心星近傍では高温のためH2Oはダスト表面から脱離し気体となるが、遠方では低温のためダスト表面に凍結する。この境界がH2Oスノーラインであり、ダストの合体成長で惑星を作る際、H2Oスノーラインの内側では地球型の岩石惑星が形成される。一方外側ではダストの総量が増加する。このため重力で周りのガスを大量に集める事が可能となり、木星型のガス惑星が形成される。太陽質量程度の前主系列星周りの円盤の温度分布を計算すると、H2Oスノーラインは中心星から数AU 程度に存在するとされている。しかし系外惑星系の場合空間分解能が足りず、撮像観測によるH2Oスノーラインの検出は困難であった。
一方最近SpitzerやHerschelで円盤から放射されるH2O輝線を検出できるようになった。異なる波長のH2O輝線の強度比を用いてH2O スノーラインの位置を見積もる研究もなされつつあるが、円盤の温度分布のモデルに依存するものであった (Zhang et al. 2013)。しかし今後波長分解能の高い分光観測が可能になれば、輝線スペクトルの速度プロファイルを解析する事で、モデルに依存せずH2Oスノーラインを同定できると考えられる。
そこで我々はこれまで、この様な観測によるH2Oスノーライン決定の可能性を調べてきた。具体的にはまず原始惑星系円盤の化学反応計算を行い、H2O の存在量とその分布を調べた。するとH2O スノーラインの内側の円盤赤道面付近だけでなく、円盤上層部の高温領域でもH2O ガスの存在量が多い事が分かった。またその計算結果を元に、円盤から放出されるH2O輝線のプロファイルを、近赤外線からサブミリ波までの複数の輝線について計算した。その結果放射係数 (アインシュタイン A係数) が小さく励起エネルギーが高い複数の輝線のプロファイルを分光観測で調べる事で、H2Oスノーラインを同定できる事が分かった。

また本研究では、新たに化学反応計算においてダスト表面反応を導入した場合と、ダストサイズを成長させた場合についての結果についても報告する。
まずダスト表面反応を導入した場合は、 スノーライン内側の円盤赤道面付近ではH2Oガス存在量が増加する一方、円盤上層部の高温領域では減少した。その結果放射係数が小さく励起エネルギーが高いH2O輝線の放射強度が増加し、かつその増加幅は波長が短い輝線ほど大きい事も分かった。そして円盤上層部の高温領域からの寄与が小さくなった事で、放射係数がより大きな輝線もH2Oスノーラインの決定に使える可能性が示された。
一方ダストサイズを成長させた場合は、円盤上層部の高温領域でのH2Oガス存在量が増加する事が分かった。そのため、この場合はH2Oスノーラインの同定のためにはより小さな放射係数を持つラインを使用する必要があると考えられる。
本発表ではこの解析結果、及び将来の中間赤外線、遠赤外線、サブミリ波高分散分光観測 (ALMA, TMT, SPICA etc.) との関係について議論する。