日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG64] 海洋底地球科学

2015年5月28日(木) 14:15 〜 16:00 A05 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*沖野 郷子(東京大学大気海洋研究所)、田所 敬一(名古屋大学地震火山研究センター)、石塚 治(産業技術総合研究所活断層火山研究部門)、土岐 知弘(琉球大学理学部)、高橋 成実(海洋研究開発機構地震津波海域観測研究開発センター)、座長:山下 幹也(海洋研究開発機構 地震津波海域観測研究開発センター)、土岐 知弘(琉球大学理学部)

15:15 〜 15:30

[SCG64-34] ホウ素同位体比を指標に用いた南海トラフ熊野沖付加体斜面表層堆積物中におけるホウ素の挙動の解明

*土岐 知弘1比嘉 恒太1新城 竜一1 (1.琉球大学)

キーワード:南海トラフ, 付加体斜面, 表層堆積物, ホウ素同位体比

<序論>
海洋の物質循環において,ホウ素は海水から粘土鉱物に取り込まれ,海底堆積物はホウ素の除去源として働いている(Spivack et al., 1987)。しかし,詳しい反応過程については,いまだに十分明らかにされていない。同位体分別係数は反応過程ごとに固有の値を持つことから,同位体分別係数を調べることによって現場で起きている反応過程を推定することができる。しかし,これまでに報告されている室内実験による同位体分別係数は(Palmer et al., 1987),特に低温の天然環境での反応過程を説明できているとは言いがたい。本研究では,表層堆積物中のホウ素の同位体分別係数を調べ,ホウ素の挙動を明らかにした。

<試料採取と測定方法>
統合国際深海掘削計画の第338次研究航海において採取した南海トラフ熊野沖付加体の表層堆積物を用いて,堆積物中の間隙水を抽出した。間隙水中のホウ素濃度は,船上において誘導結合プラズマ原子発光分析を用いて測定した(Strasser et al., 2014)。精度は±2.5%以内である。ホウ素同位体比は,間隙水からホウ素を単離して,マルチコレクター誘導結合プラズマ質量分析装置を用いて測定した(Wang et al., 2010)。ホウ素同位体比の測定結果は,標準試料NBS SRM 951からの千分率偏差であるδ11Bとして規格化した。精度は±0.7‰以内である。

<結果と考察>
間隙水中のホウ素濃度は,表層において海水よりも高い値を示し,深くなるにつれて減少した。表層のδ11B値は海水よりも低く,深くなるにつれて高くなった。各層における固相と液相の同位体分別係数αは0.950~0.970であることが示された。室内実験による報告値(0.975~0.980;Palmer et al., 1987)よりも低く,室内実験では天然環境における現場の間隙率,圧力,鉱物の組成及び液相のイオン強度など十分に再現できていないファクターがあると考えられる。
同位体分別係数と現場の温度,pH,斜長石の含有率及び全有機炭素量との相関を調べた。このうち,pHについてはゆるやかな負の相関が見られ,世界中の表層堆積物についても調べたところ(You et al., 1993; Kopf et al., 2000; Teichert et al., 2005),同様の相関があることが明らかとなった。このことは,pHが高くなると10Bに富むB(OH)4-が 優勢となり,負に帯電した状態で固相に取り込まれていることを示していると考えられる。

<結論>
南海トラフの付加体斜面における表層堆積物中のホウ素の同位体分別係数は,pHによってゆるやかにコントロールされており,室内実験では再現できていない反応過程が示されていると考えられる。