日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS28] 活断層と古地震

2015年5月27日(水) 16:15 〜 18:00 103 (1F)

コンビーナ:*吾妻 崇(独立行政法人産業技術総合研究所)、杉戸 信彦(法政大学人間環境学部)、藤内 智士(高知大学理学部応用理学科)、吉岡 敏和(独立行政法人産業技術総合研究所活断層・地震研究センター)、座長:吾妻 崇(独立行政法人産業技術総合研究所)

17:48 〜 17:51

[SSS28-P20] 歴史南海地震災害の理解に向けた高知県沿岸の海底構造物の形成過程

ポスター講演3分口頭発表枠

*谷川 亘1山本 裕二2村山 雅史2徳山 英一2若木 重行1廣瀬 丈洋1井尻 暁1星野 辰彦1 (1.独立行政法人海洋研究開発機構高知コア研究所、2.高知大学 海洋コア総合研究センター)

キーワード:南海地震, ビーチロック, コンクリーション, 地震性地殻変動

高知県各地において南海巨大地震により集落一帯が沈降したという伝承(『黒田郡』伝承)が残されている。一方、高知県の沿岸部各地において、海底下において人工的に作られたと思われる構造物が確認されており、『黒田郡』伝承とともに歴史津波地震災害を読み解く鍵として注目されている。
高知県幡多郡大月町の柏島北部沿岸では、海岸線と平行に並ぶ石堤と類似した構造物が海底に存在することが知られており、住民たちの間では『岡の土手・沖の土手』といわれ親しまれてきた。この構造物は、巨礫が積み上げられて壁のように切立っていて、各巨礫はその隙間を埋めるセメント状の細粒物質により強固に結合している。柏島陸上に現存する『兼山堤』と平行した位置関係にあることを踏まえると、人工物の可能性を示唆している。一方、巨礫がランダムに積み上げられていることや、温暖域の沿岸部では自然の堆積作用によっても類似の構造物(ビーチロック)が形成されうるため、自然作用の産物の可能性も否定できない。『兼山堤』は、江戸時代初期に土佐藩家老であった野中兼山が指揮を執って建設したものである。一方、建築材料として日本で本格的に近代セメントの利用が始まったのは明治時代以降のことである。上記を踏まえると、柏島の海底構造物の成因として以下の3つの仮説が挙げられる。
①人工セメントを用いて人工的に積み上げられた石堤(防波堤・船着場として使用)
②自然構造物(ビーチロック)
③人工的な石積みが海底で自然のセメント化作用を受けて強固になった構造物
対象構造物か「人工物」か「自然物」かの判断はもちろん重要であるが、地震に伴う地殻変動と津波災害との関係で海底構造物を捉えた場合、対象物が形成された年代と環境(水深・陸/海)を把握することが重要である。そこで本研究では、建造物のセメント物質の年代測定(14C年代法・Sr同位体年代法)、化学分析(XRF、SIMS)、鉱物同定(XRD)を行い、その年代と形成された環境を推定する。また、近代以降と明治時代以前の沿岸・河川の人工石造物と海底構造物の化学的特徴の違いを明確にするために、
A.柏島沿岸陸上に設けられている防波堤
B.仁淀川に露出する野中兼山が設計に関わった「鎌田堰」跡(取水堰)
を対象として、海底構造物と同様にセメント物の年代・化学分析と、微細構造組織観察を行う。本研究の結果をもとに、人工セメントと自然セメント物(ビーチロック)を区別する指標と形成年代の推定方法を確立し、現存する海底地震遺構の調査・分析に応用する計画である。本発表では、2014年10月に行った柏島の海底地形調査と海底および陸上で採取した試料の化学分析の結果を速報する。

謝辞
本研究の海洋調査は日本海洋株式会社の多大なご協力を頂きました。ここに厚く御礼を申し上げます。