18:15 〜 19:30
[SSS30-P13] 小地震を考慮した準動的地震サイクルシミュレーションコードの開発
キーワード:地震サイクル, 数値シミュレーション, グーテンベルク・リヒター則, 高速化
地震の規模と発生頻度はGutenberg-Richter(GR)則によって表される。このグラフの傾きbは地域によって異なる値を取り、また時間変化することが知られている。b値が増加すると、小さな地震が相対的に増加し、逆に減少すると、大きな地震の数が相対的に増加する。
Nanjo et al.(2012)は2011年東北地方太平洋沖地震や2004年スマトラ島沖地震で、巨大地震前の長期間にわたってb値が減少していったことを報告している。巨大地震発生に至るb値の減少は、巨大地震の発生前の前兆現象とも考えられ、巨大地震の発生予測に役立つ可能性がある。
一方、Tormann et al.(2015)は東北地方太平洋沖地震後に増加したb値が減少し、現在は巨大地震発生前の水準に戻っていることを指摘している。
このようにb値が巨大地震前後で変動している様子が観測されている。b値の変動のメカニズムは明らかではないが、b値の変化が応力場を反映しているのではないかと考えられ、小さな地震が巨大地震発生に何らかの影響をもたらしているのではないか、少なくとも巨大地震震源域における応力状態の指標になるのではないかと考えられる。また、b値の変動の物理的メカニズムを明らかにし、今後b値がどのように変動しうるのかを知ることで巨大地震発生の予測につながる可能性がある。そのためには、巨大地震だけでなく、現実に発生している小さな地震まで含む、現状を模した地震サイクルシミュレーションを行い、巨大地震前のb値の時空間的変動を再現することが必要である。
現在の速度状態依存摩擦則に基づく地震サイクルシミュレーションでは、地震時変動の時間スケールと地震間変動の時間スケールに大きな違いがあるため、時間可変のRunge-Kutta法を用いている。この手法ではすべり速度が大きい時には、細かいtime-stepで計算が行われ、すべり速度が小さい時には、大きなtime-stepで計算が行われる。
また、現状の地震サイクルシミュレーションは、規模の大きい地震のみの再現がほとんどで、大小様々な地震を再現したシミュレーションはほとんど行われていない。それは、GR則に従う発生頻度の高い規模の小さな地震を含んだ計算を行うと、絶えず地震が発生している状況になり、常に細かなtime-stepで計算を行うこととなり、計算コストがかかるからである。より現実的な地震サイクルシミュレーションを実現するには、特に小さな地震の計算コストを下げる必要がある。
このようにb値の時空間変動を数値シミュレーションで再現するには、計算コストを減らすことが最重要課題である。本研究では、地震サイクルシミュレーションの計算には、放射減衰項を用いた準動的な近似(Rice,1993)を用いた境界要素法による計算を行った。この計算において、time-stepの問題の他に、すべり応答関数行列とすべり速度ベクトルの掛算もまた計算コストの点で問題となる。プレート境界面をN個の小断層セルに分割すると、演算回数はO(N*N)となる。巨大地震から小さな地震まで含む計算ではNは非常に大きくなり、計算量は膨大となる。Ohtani et al.(2011)ではH-matrices法を地震サイクルの計算に適用し、メモリや計算時間をO(N)-O(NlogN)に削減することに成功している。本研究でもH-matrices法を適用することで、行列ベクトル積の計算コストの削減を図る。
先に述べたように、巨大地震だけでなく多数の小さな地震発生までをも再現するサイクルのシミュレーションを行う場合、どの時間においても、いずれかの領域が比較的大きなすべり速度を持つ。時間可変のRunge-Kutta法を用いた計算では常に細かなtime-stepで地震サイクルの計算をしなければならず、計算コストが高くなってしまう。この問題を回避するために、RSQSim(Dieterich and Richards-Dinger,2010)コードが開発されているが、本研究では、大きな地震は従来の準動的なサイクル計算を行い、小さな地震については例えば以下のように簡略化することを考える。すなわち、小さな地震の発生場所が、ある一定の応力値に達すると、その場所の応力を解放させ、小さな地震の発生場所及びその周囲に、解放した応力に応じたすべり及びすべり速度を与える。
今回の発表では、この計算手法の検証を行い、その問題点及び今後の展望に関して述べる。
Nanjo et al.(2012)は2011年東北地方太平洋沖地震や2004年スマトラ島沖地震で、巨大地震前の長期間にわたってb値が減少していったことを報告している。巨大地震発生に至るb値の減少は、巨大地震の発生前の前兆現象とも考えられ、巨大地震の発生予測に役立つ可能性がある。
一方、Tormann et al.(2015)は東北地方太平洋沖地震後に増加したb値が減少し、現在は巨大地震発生前の水準に戻っていることを指摘している。
このようにb値が巨大地震前後で変動している様子が観測されている。b値の変動のメカニズムは明らかではないが、b値の変化が応力場を反映しているのではないかと考えられ、小さな地震が巨大地震発生に何らかの影響をもたらしているのではないか、少なくとも巨大地震震源域における応力状態の指標になるのではないかと考えられる。また、b値の変動の物理的メカニズムを明らかにし、今後b値がどのように変動しうるのかを知ることで巨大地震発生の予測につながる可能性がある。そのためには、巨大地震だけでなく、現実に発生している小さな地震まで含む、現状を模した地震サイクルシミュレーションを行い、巨大地震前のb値の時空間的変動を再現することが必要である。
現在の速度状態依存摩擦則に基づく地震サイクルシミュレーションでは、地震時変動の時間スケールと地震間変動の時間スケールに大きな違いがあるため、時間可変のRunge-Kutta法を用いている。この手法ではすべり速度が大きい時には、細かいtime-stepで計算が行われ、すべり速度が小さい時には、大きなtime-stepで計算が行われる。
また、現状の地震サイクルシミュレーションは、規模の大きい地震のみの再現がほとんどで、大小様々な地震を再現したシミュレーションはほとんど行われていない。それは、GR則に従う発生頻度の高い規模の小さな地震を含んだ計算を行うと、絶えず地震が発生している状況になり、常に細かなtime-stepで計算を行うこととなり、計算コストがかかるからである。より現実的な地震サイクルシミュレーションを実現するには、特に小さな地震の計算コストを下げる必要がある。
このようにb値の時空間変動を数値シミュレーションで再現するには、計算コストを減らすことが最重要課題である。本研究では、地震サイクルシミュレーションの計算には、放射減衰項を用いた準動的な近似(Rice,1993)を用いた境界要素法による計算を行った。この計算において、time-stepの問題の他に、すべり応答関数行列とすべり速度ベクトルの掛算もまた計算コストの点で問題となる。プレート境界面をN個の小断層セルに分割すると、演算回数はO(N*N)となる。巨大地震から小さな地震まで含む計算ではNは非常に大きくなり、計算量は膨大となる。Ohtani et al.(2011)ではH-matrices法を地震サイクルの計算に適用し、メモリや計算時間をO(N)-O(NlogN)に削減することに成功している。本研究でもH-matrices法を適用することで、行列ベクトル積の計算コストの削減を図る。
先に述べたように、巨大地震だけでなく多数の小さな地震発生までをも再現するサイクルのシミュレーションを行う場合、どの時間においても、いずれかの領域が比較的大きなすべり速度を持つ。時間可変のRunge-Kutta法を用いた計算では常に細かなtime-stepで地震サイクルの計算をしなければならず、計算コストが高くなってしまう。この問題を回避するために、RSQSim(Dieterich and Richards-Dinger,2010)コードが開発されているが、本研究では、大きな地震は従来の準動的なサイクル計算を行い、小さな地震については例えば以下のように簡略化することを考える。すなわち、小さな地震の発生場所が、ある一定の応力値に達すると、その場所の応力を解放させ、小さな地震の発生場所及びその周囲に、解放した応力に応じたすべり及びすべり速度を与える。
今回の発表では、この計算手法の検証を行い、その問題点及び今後の展望に関して述べる。