日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CC 雪氷学・寒冷環境

[A-CC28] 雪氷学

2015年5月25日(月) 09:00 〜 10:45 201B (2F)

コンビーナ:*鈴木 啓助(信州大学理学部)、兒玉 裕二(国立極地研究所)、座長:鈴木 啓助(信州大学理学部)

09:45 〜 10:00

[ACC28-04] 白馬岳高山帯における山火事発生後の地表環境のモニタリング

*佐々木 明彦1苅谷 愛彦2鈴木 啓助3 (1.信州大学山岳科学研究所、2.専修大学文学部環境地理学科、3.信州大学理学部物質循環学科)

キーワード:山火事, 高山帯, ハイマツ, 斜面侵食, 地温変化, 白馬岳

2009年5月9日に白馬岳の高山帯において発生した山火事から5年が経過した。山火事を契機とした大規模な土砂移動は生じていないことがこれまでに確認されているが,山火事によって葉が焼失したハイマツ群落では,今後ハイマツが枯死し,根が抜けるなどの変化が生じる場合に新たな土砂移動のプロセスが始まる可能性がある。そのため,地形の変化を引き続きモニタリングしていく必要があると考え,目視による地形観察,地温観測を実施した結果,新たな土砂移動の兆候が認められた。
山火事跡地の詳細な地形図を基図として,延焼域及びその周辺の斜面に立ち入り,目視観察を主たる方法として,地表の状況を記載した。また,山火事によって焼失したハイマツ群落と,その直近のハイマツ非焼失群落に,それぞれ温度計を設置し,山火事による斜面環境の変化を観測した。温度センサーは,リター内,1cm深,10cm深,40cm深に埋設した。また,両群落の周囲にみられる草本群落にも温度センサーを埋設した。
ハイマツの焼失と地形変化との関連に関して,次の観察事実を得た。2012年までの3年間の観察では,地表流による侵食などの地形変化は生じていなかったが,2013年の調査の際には,ノッチ状地形の庇の基部が侵食を受けて,ノッチが後退していることが確認された。しかし,2014年にはノッチの状態は変化していない。また,焼失ハイマツ群落の林床では,表面の砂礫が移動し,流水の痕跡も認められた。焼失ハイマツ群落の林床のリターの厚さは,2011年にはおおむね4cmであったが,2012年には2cmとなり,2013年と2014年には場所によっては0.5cm程度になった。2012年までの観察でも,流水の作用によるリターの流出は確認されていたが,リターはこの2年で急激に厚さを減じ,土層の表面が露出し始めている。
夏季には非焼失ハイマツ群落に比べ焼失ハイマツ群落における地温が高くなり,それは1cm深で最も顕著であることが明らかとなった。夏季の地温は2010年と2011年は同傾向であったが,2012年と2013年,2014年のそれはとくに高くなった。2009年や2010年では,10月~11月の凍結移行期に1cm深での日周期の凍結融解は生じなかった。一方で,2011年の10月~11月には,非焼失ハイマツ群落の1cm深では日周期の凍結融解は生じないものの,焼失ハイマツ群落では13回の日周期の凍結融解が生じた。2012年および2013年の10月~11月も同様で,焼失ハイマツ群落でのみ日周期の凍結融解が10回以上生じた。また,2010年と2011年の融解進行期には日周期の凍結融解は生じなかったが,2012年以降の融解進行期にはそれぞれ20回ほどの日周期の凍結融解が生じた。
ノッチの侵食や林床の砂礫の移動,リターの流出は,2013年の8月に連続して生じた豪雨が影響して劇的に進行した可能性はあるが,砂礫の移動には凍結融解作用の強化が関与していることも考えられる。また,山火事後にハイマツの焼失によってリターの供給が途絶えた結果,それまでに林床に存在したリターが流水で流出するほか,夏季地温の上昇に伴う乾燥化に起因して分解が進行し,その厚さを減じているものとみられる。リターの層厚の減少に伴って,焼失ハイマツ群落における地温は裸地における地温の年変化の状況に近づいている。この点も含め,焼失ハイマツ群落の林床では,今後土層の凍結融解による物質移動や流水による土層の侵食が顕著になっていく可能性が考えられる。