日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS35] この星は、なぜ地球なのか? -水の役割-

2015年5月24日(日) 09:00 〜 10:45 201A (2F)

コンビーナ:*島 伸和(神戸大学大学院理学研究科惑星学専攻)、巽 好幸(海洋研究開発機構 地球内部ダイナミクス領域)、大槻 圭史(神戸大学大学院理学研究科)、中川 貴司(海洋研究開発機構数理科学・先端技術研究分野)、片山 郁夫(広島大学大学院理学研究科地球惑星システム学専攻)、藤江 剛(海洋研究開発機構)、中村 昭子(神戸大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、座長:大槻 圭史(神戸大学大学院理学研究科)、島 伸和(神戸大学大学院理学研究科惑星学専攻)

10:15 〜 10:30

[MIS35-06] 地球深部への水輸送とマントル対流との相互作用

*中久喜 伴益1中川 貴司2岩森 光3 (1.広島大・院理・地球惑星システム学、2.海洋研究開発機構/数理科学・先端技術、3.海洋研究開発機構/地球内部物質循環)

キーワード:水輸送, 沈み込み, マントル対流, 大規模不均質構造

島弧下のマントルの流動と水輸送を結合した数値モデリングにより、スラブが脱水してから部分融解の生成に至るまでの過程を詳しく理解できるようになった (Iwamori, 1998)。一方、背弧や大陸プレート内部においても、火山活動が見られることや、リソスフェアが大きく変形し、テクトスフェアのように表層に厚い地震波高速度域が見られないことから、沈み込んだスラブからの水が影響を与えている可能性があると考えられる。さらに、Iwamori and Nakamura (2012)では、同位体異常の独立成分解析から1つの独立成分(IC2) は親水元素の分布を示すと考えた。その分布に半球的な大規模構造が存在することが示されている。マントル深部に沈み込んだ水はどこに運ばれ、マントルダイナミクスにどのような影響を与えるのであろうか。これらの動力学的過程を理解するため、沈み込み帯深部までの水輸送とプレートの沈み込みを動的結合したマントル対流の数値モデルを構築し、シミュレーションを行った。

基礎となるモデルとして、これまで著者らが開発してきた自発的沈み込みのモデル (Nakakuki, et al. 2010) を使用した。このモデルに、含水鉱物の相図と水輸送を組み込む。岩石の最大含水量は相図から決まる水和鉱物・結晶内の水だけでなく、結晶粒界の水も考慮した。水がマントル対流に与える影響として、含水によって岩石の密度や粘性が低下する効果を考える。最大含水率を超えると岩石は脱水し、その水は浸透流により上方に運ばれると考えられる。脱水した水は瞬間的に上方へ動くと仮定した。

岩森らの研究や地震学的な研究(Kawakatsu and Watada, 2007)によると、海洋地殻から脱水した水は、スラブ上面の橄欖岩に取り込まれ蛇紋岩として、150km程度の深さまで輸送される。我々のモデルでは、この含水層が安定に形成されるためには、沈み込む海洋地殻の含水量は2%程度以上でなければならなかった。また、強度については、プレート境界の逆断層と同程度かそれよりも小さくなければならなかった。これらはHoriuchi (2013)の結果と調和的である。この相がchoke pointで分解した後、水は高温のマントルへ脱水し、高温のnominally anhydrous minerals (NAMs)により深部へ輸送される。このとき、NAMsが持つことの出来る水は最大で0.2 wt. %程度と推定された。これより大きい場合(0.4 wt. %)には、深部へ輸送される水が多くなりすぎて島弧下のマントルを水で満たすことは出来なくなった。深部に運ばれる水の量は、海洋地殻に含まれる水の量によらず、海洋地殻に対する質量比で約1%であった。

Richards and Iwamori (2010)は水平なスタグナントスラブが形成された際、含水層がレイリー・テイラー不安定を起こし、プルームとして上昇する可能性を示した。これに対し本研究では、そのような不安定の発生は見られなかった。一方、下部マントルに沈み込むスラブは、下部マントルの最大含水率に依存して脱水する。下部マントルの含水力が410km以浅のNAMsマントルより小さい場合には脱水を起こす。この場合、スラブ上面の含水層は660km相境界面を境に大きく水平方向へ広がることが分かった。これは、上方への脱水と沈み込みに伴う斜め下降を繰り返すためである。脱水した水によって、水に飽和した薄い層が660km相境界直上に形成された。この層は軽く、不安定となり、含水プルームとして上昇し始める。一方、 下部マントルに運ばれる水の量は、含水層が広がることによって、上部マントルのNAMsと下部マントルの最大含水率比の5倍程度になる。また、スラブがマリアナ弧のように海側に傾く時には、660 km相境界にてスラブの低温側 (D相)に水が入る可能性があることを示した。

下部マントルに沈み込んだ水はスラブとともに核・マントル境界(CMB)に落下する。マントル最下部には平均的なマントルより密度が高い物質が集積していて、これが地震波の大規模横波低速度域(LLSVPs)、すなわちスーパープルームの原因となっていると考えられている。沈み込んだスラブは密度が高い物質を沈み込んだ場所から掃き出してしまう。つまり、LLSVPsと水分布は排他的となることを意味する。OIBソースとして、CMB上の高密度層が考えられることが多い。しかし、Iwamori and Nakamura (2012)によるとOIB的なIC1と親水元素のIC2は排他的ではない。独立成分の解釈が正しいとすれば、我々の結果はOIBソースがLLSVPsのようなCMB上の一部を占めるパイルではないこと示している。