18:15 〜 19:30
[SSS29-P07] 沈み込みに伴う海洋地殻物質の透水性の変化:四万十陸上付加体物質を用いた検討
キーワード:透水係数, 変質, 間隙水圧, 南海地震, 四万十帯, 玄武岩
2011年の東北地方太平洋沖地震は、プレート境界断層浅部で断層が50mにもわたる大きな変位を伴うすべりが生じたことにより大規模な津波災害が引き起こされたと考えられている。大変位を引き起こした原因のひとつとして、プレート境界近傍・深部における異常間隙水圧の発達に伴う強度の低下が挙げられる。この異常間隙水圧の発生要因として、沈み込みに伴う海洋プレート物質の脱水反応、深部流体の流入、続成作用に伴う孔隙体積および透水性の変化が挙げられる。同様のプロセスは東北沖だけでなく南海トラフ地震発生帯でも発生することが予想される。いずれのメカニズムも間隙水圧が実際にどの程度発達しうるかは、沈み込みに伴う海洋プレート物質の水理特性の変化が大きく影響する。そこで、本研究では南海トラフ沖プレート境界下部の海洋プレート物質を研究対象として、本対象の模擬物質である西南日本の陸上四万十帯付加体の試料を用いて、続成作用にともなう水理特性の変化を調べた。
本研究では、西南日本の陸上四万十帯付加体中の続成状態が異なると考えられる興津(小鶴津)、久礼、牟岐、および槇峰メランジュ中の4地点5種類の玄武岩を用いた。ビトリナイト反射率から推定した続成度(最大被熱温度)は下部牟岐メランジュが一番低く、槇峰メランジュが一番高い。本研究は、大気圧室温下において間隙率、弾性波速度、岩石比抵抗、および水銀圧入法による間隙径分布の測定を行った。透水係数は封圧1~160 MPaまで変化させて、窒素ガスを間隙流体として用いて行った。試料上流側のガス圧を一定に制御(0.05~2.0 MPa)したガスを試料に流して、試料下流側から大気圧下に排気されたガス流量を測定して透水係数を算出した。
下部牟岐メランジュの間隙率は3~5%、槇峰は0.5~1%を示し、続成度が大きくなるにしたがって間隙率が小さくなる傾向が認められた。岩石比抵抗は下部牟岐メランジュが一番低い値を示したが、その他の玄武岩は違いが認められなかった。弾性波速度についても続成度による違いは明瞭に認められなかった。
同じ封圧条件で測定したガス浸透係数は、間隙圧の逆数に比例するKlinkenberg効果が認められた。そこで、Klinkenbergの式を用いて「ガス浸透係数」から「透水係数」に変換した。また、ほとんどの実験で「透水係数」とKlinkenberg式の「比例係数」が累乗則でフィッティングできたため、Klinkenbergの式で変換できなかったガス浸透係数は経験的に求めた累乗則を用いて推定した。いずれの試料も有効圧の増加に伴い透水係数は減少した。5MPaから120 MPaの封圧の変化に対して約3桁減少し、またその変化は指数関数で近似できた。続成度の高い試料ほど低い透水性を示し、有効圧20MPaにおいて下部牟岐玄武岩は7*10-18~9*10-19 m2を示したのに対して、槇峰玄武岩は2*10-22 m2を示した。また同じメランジュから採取した試料では、1~2桁ほど透水係数のばらつきが認められた。測定した間隙径は測定装置の測定限界付近の0.01μm以下の非常に低い間隙構造を持っていることが確認された。
続成作用に伴う透水係数の減少は間隙率の減少と相関を示したことから、沈み込みにともなう力学的・化学的圧密作用による間隙径と間隙体積の減少により透水性が徐々に減少したことを示唆する。また、μX線CT画像の解析によると、同一種類の玄武岩の岩石物性のばらつきはメソスケールの割れ目の発達の程度が影響していることがわかった。
沈み込み帯プレート境界近傍の間隙水圧の上昇メカニズムは、これまで主に鉱物の脱水反応や地下深部からの流体の供給が主な原因として考えられてきた。しかし本研究結果は続成作用に伴う間隙体積と透水係数の減少が間隙水圧の増加に大きく寄与しうることが明らかとなった。そのため、南海トラフ沈み込み帯の高間隙水圧帯の発生領域は、本研究で求められた透水係数と間隙率の減少速度に依存している可能性が高い。
本研究では、西南日本の陸上四万十帯付加体中の続成状態が異なると考えられる興津(小鶴津)、久礼、牟岐、および槇峰メランジュ中の4地点5種類の玄武岩を用いた。ビトリナイト反射率から推定した続成度(最大被熱温度)は下部牟岐メランジュが一番低く、槇峰メランジュが一番高い。本研究は、大気圧室温下において間隙率、弾性波速度、岩石比抵抗、および水銀圧入法による間隙径分布の測定を行った。透水係数は封圧1~160 MPaまで変化させて、窒素ガスを間隙流体として用いて行った。試料上流側のガス圧を一定に制御(0.05~2.0 MPa)したガスを試料に流して、試料下流側から大気圧下に排気されたガス流量を測定して透水係数を算出した。
下部牟岐メランジュの間隙率は3~5%、槇峰は0.5~1%を示し、続成度が大きくなるにしたがって間隙率が小さくなる傾向が認められた。岩石比抵抗は下部牟岐メランジュが一番低い値を示したが、その他の玄武岩は違いが認められなかった。弾性波速度についても続成度による違いは明瞭に認められなかった。
同じ封圧条件で測定したガス浸透係数は、間隙圧の逆数に比例するKlinkenberg効果が認められた。そこで、Klinkenbergの式を用いて「ガス浸透係数」から「透水係数」に変換した。また、ほとんどの実験で「透水係数」とKlinkenberg式の「比例係数」が累乗則でフィッティングできたため、Klinkenbergの式で変換できなかったガス浸透係数は経験的に求めた累乗則を用いて推定した。いずれの試料も有効圧の増加に伴い透水係数は減少した。5MPaから120 MPaの封圧の変化に対して約3桁減少し、またその変化は指数関数で近似できた。続成度の高い試料ほど低い透水性を示し、有効圧20MPaにおいて下部牟岐玄武岩は7*10-18~9*10-19 m2を示したのに対して、槇峰玄武岩は2*10-22 m2を示した。また同じメランジュから採取した試料では、1~2桁ほど透水係数のばらつきが認められた。測定した間隙径は測定装置の測定限界付近の0.01μm以下の非常に低い間隙構造を持っていることが確認された。
続成作用に伴う透水係数の減少は間隙率の減少と相関を示したことから、沈み込みにともなう力学的・化学的圧密作用による間隙径と間隙体積の減少により透水性が徐々に減少したことを示唆する。また、μX線CT画像の解析によると、同一種類の玄武岩の岩石物性のばらつきはメソスケールの割れ目の発達の程度が影響していることがわかった。
沈み込み帯プレート境界近傍の間隙水圧の上昇メカニズムは、これまで主に鉱物の脱水反応や地下深部からの流体の供給が主な原因として考えられてきた。しかし本研究結果は続成作用に伴う間隙体積と透水係数の減少が間隙水圧の増加に大きく寄与しうることが明らかとなった。そのため、南海トラフ沈み込み帯の高間隙水圧帯の発生領域は、本研究で求められた透水係数と間隙率の減少速度に依存している可能性が高い。