[M-AG38] 福島原発事故により放出された放射性核種の環境動態

[MAG38-P02] 移流拡散による土壌中放射性核種の下方浸透のモデル化と濃度予測

*岡 宏樹¹、羽田野 祐子¹、山本 昌宏² (1.筑波大学大学院システム情報工学研究科、2.東京大学大学院数理科学研究科)

キーワード：移流拡散方程式, 土壌中下方浸透, 福島第一原発事故, 放射性セシウム

2011年3月11日に福島第一原子力発電所において発生した事故により、周辺環境が放射性物質により汚染される被害が発生した。地表面へ付着したCs-137は土壌中に潜り込み下方へ浸透していく。原子力事故由来の放射性核種の地中移行は研究され続けており、代表的なモデルとして Walling and He らによって移流拡散方程式（ADE）が提案されている。このモデルは他のモデルに比べ単純だということもあり現在最も用いられている一方で、土壌といった多孔質媒体中の移行モデルは移流拡散方程式だけでは表現しきれないという事例の報告もある。これは各土地の土壌特性の違いが放射性核種の下方浸透に影響を及ぼしていることが原因だと考えられるが、このような様々な環境要因の複雑なプロセスを全て考慮してモデル化を行うことは非常に労力を要する。そこで本研究ではそのようなモデルとは異なる立場に立ち、最も用いられている Walling and He らの移流拡散モデル（以降、ADEモデル）の改善を行うことによって、より汎用性の高いモデルを提案する。
このADEモデルは境界条件にRobin境界条件を用いており、ディリクレやノイマンといった境界条件に比べより一般的な解析解を導出している。Robin境界条件とは境界面での放射性核種の流入出は起こらないとしたものであるので、このADEモデルは濃度の総量を一定に保ちながら下方浸透していくモデルである。しかしながら、実際現象で地表面での流入出が全く起こらないというのは考えがたい。ゆえに本研究ではこのRobin境界条件に着目し、ADEモデルの改善を行う。支配方程式に移流拡散方程式を設定し解析解を導出するが、このとき境界条件に一般化したRobin境界条件を用いる。これにより上記のADEモデルに加え、地表面での流入出も考慮している移流拡散モデル（新ADEモデル）を導出する。この新ADEモデルの妥当性を検証するために福島県土壌中の放射性セシウム濃度データとのフィッティングも行うが、モデルはデータを良く追従する。ゆえに提案した新ADEモデルは、地表面での流入出も含む土壌中放射性核種の下方浸透モデルとして確立できる。