日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS27] 地震予知・予測

2015年5月24日(日) 10:00 〜 10:45 103 (1F)

コンビーナ:*中島 淳一(東北大学大学院理学研究科附属地震・噴火予知研究観測センター)、座長:前田 憲二(気象研究所)

10:15 〜 10:30

[SSS27-02] 稀な現象の確率予測にも使える適切な採点法

*林 豊1 (1.気象研究所)

キーワード:基準値予報, 地震予測, 拡張ブライアスコア, 情報利得, 確率予報, 適正な採点ルール

新たな手法を導入して予報を確実に改善できるためには、予報精度を適正に評価する採点法が存在し、新手法を導入した場合に出すであろう予報の採点結果(スコア)が従来の方法による予報のスコアを上回ることが必要条件である。「適正な」採点ルールは、予報者が自分の判断通りに予報を出すことを奨励する必要がある(Murphy and Epstein, 1967)。降水確率予報などの評価に用いられているブライアスコア(Brier, 1950)はこの数学的な条件を満たすが、カルバック・ライブラー情報量(Kullback and Leibler, 1951)などはこの条件を満たさない。「不適正な」採点ルールの下では、予報を細工した方が高いスコアを得られることがあるので、スコアを高める努力は、一般にはよりよい予報手法を目指す正直な行為とはいえない。このため、特に地震予知の分野で広く適用されている情報量等を尺度とした「不適正な」予報精度の測定や比較の意義の解釈には、慎重になるべきである。
ところで、ブライアスコアは予報値と実況値の平均自乗誤差の期待値で、現象の有と無に等しい重みを置いている。一方、稀な現象が対象の予報利用者にとっては、予報値が高い確率の場合や現象が実際に発生した場合の予報が重要な情報である。以下に、地震予測のように稀な現象を対象とした確率予報を適切に評価できる採点法を導出する。
予想値(予報者の真の信念に基づく確率)をp、予報値をf、実況値i(現象が発生すれば1、発生しなければ0)、基準予報値(例えば統計値に基づく単純な予報値)をc、スコアをS_(f,c)と定義する。適正な採点ルールでは、期待値Es(x,c)=pS1(x,c)+(1-p)S0(x,c) (式1)について、Es(p,c) > Es(x,c) for all x≠p (式2)が必要である。また、稀な現象をより重視する場合でも、基準値から考えられる予報の難易度について公正な条件 S0(c,f)≡S1(1-c,1-f) (式3)と、難易度が高い予報ほど高いスコアが得られる条件∂S1/∂f|c=const>=0, ∂S1/∂c|c=const式1,3を満たす解は式(5)を満たす。ここでAは任意の関数である。
  S1(f,c)=-(i-f)B'(f,c)+(i-x)B'(x,c)-B(f,c)+B(x,c), A=d2B/df2 (式5)
適当な境界値とAの関数形で式5を解き、S_が不等式2と4を満たせば、適正な採点ルールを満たし、かつ、都合のよい性質を持つ評価法を得られる。
例えば、基準値予報のスコアS_(c,c)≡0、完全な予報のスコアS_(i,c)≡1の境界条件で解くと、A=-2でS_(f)=1-(i-f)2 (式6)を得る。ここで、1-S_(f)はブライアスコアに一致する。
もう一例として、基準となる予報値でのスコアS_(c,c)≡0、完全な予報の期待スコアEs,p≡1を境界条件としてAがfの0次式の解を求めると、A=-2 / c(1-c)から S_(f,c)={(i-c)2-(i-f)2} / c(1-c) (式7) を得られる。これも適正な採点ルールを満たす。c=1/2の時、(1-S_(f))/4はブライアスコアであるから、式7は基準値予報の選択の任意性に関してブライアスコアを拡張した評価式と解釈してよい。
以上のように、基準予報値を参照した採点式にすることで、地震予測のように稀な現象を対象とした確率予報の適正な採点法の一般解と、特に、稀な現象により重みを置いて適正に評価できるいわゆる拡張ブライアスコアと呼ぶべき解を導いた。
大会では、式の導出の詳細と、これら採点法の具体的な適用に向けての課題も議論したい。なお、津波警報のように現象の有無を対象とする二値予報の一種を適切に評価する採点法は、効用理論から導出し議論済みである(林,2014, JpGU)。