日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気水圏科学複合領域・一般

[A-CG31] 北極域の科学

2015年5月26日(火) 09:00 〜 10:45 201B (2F)

コンビーナ:*竹内 望(千葉大学)、檜山 哲哉(名古屋大学地球水循環研究センター)、平譯 享(北海道大学大学院水産科学研究院)、田中 博(筑波大学計算科学研究センター)、野澤 悟徳(名古屋大学太陽地球環境研究所)、座長:竹内 望(千葉大学)

10:15 〜 10:30

[ACG31-16] スバールバル諸島北西部の氷河におけるクリオコナイトの特性の空間分布

*宮内 謙史郎1竹内 望1アーヴィン-フィン トリストラム2エドワーズ アーウィン2 (1.千葉大学大学院理学研究科、2.イギリス,アベリストウィス大学)

キーワード:クリオコナイト, 特性の空間分布, 鉱物粒子

氷河上に堆積している暗色の固体不純物はクリオコナイトと呼ばれる.クリオコナイトを構成する有機物や鉱物粒子は,氷河上の微生物の働きにより暗色で球状の集合体を形成している(クリオコナイト粒).クリオコナイトは氷河表面のアルベドを下げ,日射の吸収を増やして氷河の融解を促進する効果があるため,その量や質,空間分布を決定する要因を明らかにすることは重要である.クリオコナイトの形態や光学特性は,地域によって異なることが明らかになっているが,ある一つの地域や氷河の空間的な変化については詳しくわかっていない.そこで本研究では,北極圏スバールバル諸島北西部のAustreBrogger氷河,Midtreloven氷河,Pedersen氷河において採取されたクリオコナイトについて,光学,化学,生物学的特性を分析し,空間的な違いとその決定要因を明らかにすることを目的とした.顕微鏡観察の結果,どの地点から採取されたクリオコナイトも鉱物粒子と糸状のシアノバクテリアを含むクリオコナイト粒が含まれていることが明らかとなった.クリオコナイト粒の内部構造の観察の結果,単層構造,多粒構造が比較的多くみられ,このことからクリオコナイト粒が1年程度の時間スケールで,形成と崩壊をくりかえしていると考えられる.クリオコナイト中の有機物量は,Midtreloven氷河,Pedersen氷河およびAustreBrogger氷河の上流部で大きく,反対にAustreBrogger氷河の下流部で少ないことが明らかになった.クリオコナイト粒の粒径は,有機物量が多い地点ほど大きいことが明らかなり,これは豊富な有機物が粒の維持に重要である可能性を示唆している.一方,クリオコナイト粒の表面のシアノバクテリアの密度を顕微鏡で分析したところ,クリオコナイトの有機物量とは明確な関係はなかった.クリオコナイトの光学特性の分析の結果,有機物量の多いクリオコナイトでは,反射率は比較的低くスペクトルも一定であるのに対し,有機物量の少ないクリオコナイトは,反射率が比較的高く多様な反射スペクトルを示すことが明らかになった.これは,有機物量の多いクリオコナイトは,有機物によって暗色化しているのに対し,有機物量の少ないクリオコナイトは鉱物成分の色の影響が強いことを示している.以上の結果から,この地域の氷河のクリオコナイトには,場所によって有機物量の多いタイプと少ないタイプが存在し,有機物の多いタイプは粒径が大きく黒い色をしているのに対し,少ないタイプは粒径が小さく多様な色を持っていることがわかった.周辺の地形や鉱物分析の結果から,この二つのタイプの違いは,シアノバクテリアなどの微生物活動の違いというよりは,氷河の周囲の岩壁からの鉱物粒子の供給量に依存していると考えられた.このようなクリオコナイトの空間分布は,氷河表面のアルベドに不均一な影響を与え,氷河の融解量を見積もる上で重要であると考えられる.