18:15 〜 19:30
[SCG59-P02] 粉体対流とその小惑星表面更新のタイムスケールへの応用
キーワード:粉体対流, レゴリス流動化, 小惑星, 表面更新
近年,惑星探査機の調査により多くの小惑星表面は砂礫(レゴリス)や岩塊(ボルダー)に覆われていることが明らかにされてきた.特に小惑星イトカワでは,天体衝突起源の振動により表面レゴリスが流動化・分級したと考えられる地形が見つかった[1].このレゴリスの流動化を説明する機構の一つとして粉体対流が注目されている[1].また,粉体対流によるレゴリス粒子の移動・表面更新は,小惑星イトカワの比較的若い表面年代1~8 Myr[2,3]を説明できるかもしれない.実際,地上の室内実験では,レゴリスのような粉体に鉛直振動を加えると粉体対流が発生することが知られている(e.g. [4]).しかし,イトカワをはじめとする小惑星のような微小重力環境下で生じる粉体対流の対流速度を見積もることを目指した定量的な粉体振動層の研究はまだ端緒についたばかりである[5].また,粉体対流による表面更新の可能性をそのタイムスケールにより議論した研究は皆無である.
この問題を解決するために,我々は室内実験を行い定常な鉛直振動を加えたガラスビーズ層の粉体対流速度を調べた.一般に室内実験で重力を変化させることは難しい.そこで,我々はスケーリング解析により粉体対流の対流速度と重力加速度の満たす関係を求めた.その結果,粉体対流の速度はほぼ重力加速度に比例することが分かった[7].この実験結果より,粉体対流は微小重力環境下においても発生し得るが,その速度は極めて小さくなる可能性が示唆された.このため,対流による表面更新のタイムスケールは非常に長くなることが予想される.
本研究では,さらに粉体対流による表面更新過程をモデル化し,レゴリス層を持つ一般の小惑星の対流による表面更新のタイムスケールの推定を試みた.このモデルでは,対流による表面更新過程を
1. インパクターがターゲット小惑星へ衝突する衝突段階
2. 衝突による地震動が発生する振動段階
3. 振動によって対流が発生する対流段階
の三つに分けた.衝突段階ではメインベルト小惑星(MBA)における天体衝突頻度モデル[7]を用いてインパクターの個数分布と衝突頻度を,振動段階では小惑星の衝突励起地震モデル[8] を用いて振動加速度と振動継続時間を,対流段階では実験で求められた粉体対流速度のスケーリング則[6] を用いて対流速度をそれぞれ推定した.1~3の各段階を統合し,小惑星上で起こるレゴリス対流による表面更新のタイムスケールTを小惑星直径Daの関数として求めた.
求めたTの表式に先行研究[1, 7, 8]で標準として用いられている物性値(衝突エネルギーから振動エネルギーへの変換効率:η=1014,衝突励起地震の減衰の指標であるQ値:Q=2000等)を代入することで,小惑星の表面レゴリスが対流によって更新するために必要なタイムスケールTを求めた.結果,イトカワサイズの小惑星の場合T=9 Myrとなり,その表面のサンプルより示された表面年代1~8 Myr[2,3]と同程度であること分かった.更に,T=9 Myrはイトカワの衝突寿命(約170 Myr [7])より短い.すなわち,本研究により,イトカワのような小惑星表面においても対流による表面更新がその寿命内に十分に可能であることが明らかになったと言える.
[1] H. Miyamoto et al., Science 316, 1011 (2007).
[2] K. Nagao et al., Science 333, 1128-1131 (2011),
[3] M. M. M. Meier et al., LPSC abstract #1247 (2014).
[4] A. Garcimartin et al., Physical Review E 65, 031303 (2002).
[5] C. Gutteler et al., Physical Review E 86, 050301 (2013)
[6] T. M. Yamada and H. Katsuragi, Planetary and Space Science 100, 79-86 (2014).
[7] D. P. O’Brien and R. Greenberg, Icarus 178, 179-212 (2005).
[8] J. E. Richardson Jr. et al., Icarus 179, 325-349 (2005)
この問題を解決するために,我々は室内実験を行い定常な鉛直振動を加えたガラスビーズ層の粉体対流速度を調べた.一般に室内実験で重力を変化させることは難しい.そこで,我々はスケーリング解析により粉体対流の対流速度と重力加速度の満たす関係を求めた.その結果,粉体対流の速度はほぼ重力加速度に比例することが分かった[7].この実験結果より,粉体対流は微小重力環境下においても発生し得るが,その速度は極めて小さくなる可能性が示唆された.このため,対流による表面更新のタイムスケールは非常に長くなることが予想される.
本研究では,さらに粉体対流による表面更新過程をモデル化し,レゴリス層を持つ一般の小惑星の対流による表面更新のタイムスケールの推定を試みた.このモデルでは,対流による表面更新過程を
1. インパクターがターゲット小惑星へ衝突する衝突段階
2. 衝突による地震動が発生する振動段階
3. 振動によって対流が発生する対流段階
の三つに分けた.衝突段階ではメインベルト小惑星(MBA)における天体衝突頻度モデル[7]を用いてインパクターの個数分布と衝突頻度を,振動段階では小惑星の衝突励起地震モデル[8] を用いて振動加速度と振動継続時間を,対流段階では実験で求められた粉体対流速度のスケーリング則[6] を用いて対流速度をそれぞれ推定した.1~3の各段階を統合し,小惑星上で起こるレゴリス対流による表面更新のタイムスケールTを小惑星直径Daの関数として求めた.
求めたTの表式に先行研究[1, 7, 8]で標準として用いられている物性値(衝突エネルギーから振動エネルギーへの変換効率:η=1014,衝突励起地震の減衰の指標であるQ値:Q=2000等)を代入することで,小惑星の表面レゴリスが対流によって更新するために必要なタイムスケールTを求めた.結果,イトカワサイズの小惑星の場合T=9 Myrとなり,その表面のサンプルより示された表面年代1~8 Myr[2,3]と同程度であること分かった.更に,T=9 Myrはイトカワの衝突寿命(約170 Myr [7])より短い.すなわち,本研究により,イトカワのような小惑星表面においても対流による表面更新がその寿命内に十分に可能であることが明らかになったと言える.
[1] H. Miyamoto et al., Science 316, 1011 (2007).
[2] K. Nagao et al., Science 333, 1128-1131 (2011),
[3] M. M. M. Meier et al., LPSC abstract #1247 (2014).
[4] A. Garcimartin et al., Physical Review E 65, 031303 (2002).
[5] C. Gutteler et al., Physical Review E 86, 050301 (2013)
[6] T. M. Yamada and H. Katsuragi, Planetary and Space Science 100, 79-86 (2014).
[7] D. P. O’Brien and R. Greenberg, Icarus 178, 179-212 (2005).
[8] J. E. Richardson Jr. et al., Icarus 179, 325-349 (2005)