日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS32] 地球掘削科学

2015年5月24日(日) 11:00 〜 12:45 304 (3F)

コンビーナ:*斎藤 実篤(独立行政法人海洋研究開発機構)、道林 克禎(静岡大学理学研究科地球科学専攻)、廣野 哲朗(大阪大学 大学院 理学研究科 宇宙地球科学専攻)、梅津 慶太(独立行政法人海洋研究開発機構)、座長:森下 知晃(金沢大学理工研究域自然システム学系)、斎藤 実篤(独立行政法人海洋研究開発機構)

12:15 〜 12:30

[MIS32-13] アルパイン断層掘削報告

*重松 紀生1岡田 知己2加藤 尚希3米谷 優佑4森 宏1西川 治5吉田 圭佑6高木 涼太7林 為人8松本 則夫1東郷 徹宏1 (1.産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門、2.大阪大学大学院、3.東北大学大学院理学研究科附属地震・噴火予知研究観測センター、4.山口大学、5.秋田大学工学資源学研究科、6.防災科学技術研究所、7.東京大学地震研究所、8.海洋研究開発機構)

キーワード:断層掘削, アルパイン断層

国際陸上科学掘削計画(ICDP)の一環として、ニュージーランド南島西海岸のアルパイン断層掘削するDFDP-2 (Alpine Fault, Deep Fault Drilling Project-2)が2014年に行われた.残念ながら,事故により断層の貫通も,ボーリングコアの取得もできなかった.
アルパイン断層はニュージーランド南島西海岸に位置する北東-南東走向南東傾斜の断層で,東側の太平洋プレートと西側のオーストラリアプレートの境界をなす.中央部における平均変位速度は,右横ずれ成分が30 m/千年弱,逆断層成分が10 m/千年弱と大きな値を示す.最新活動は1717 年に記録があり,平均活動間隔は330年でM8クラスの大地震を発生させている.最新の地震発生から298年経過し地震後経過率が 0.9と高く,近い将来に地震を起こす可能性が高い.そのため,掘削時に大規模地震を誘発する可能性が懸念され,掘削サイト周囲に地震観測網を設置し,リアルタイムで地震の監視を行った.幸い,掘削期間中に重大な地震は発生しなかった.
アルパイン断層は地震後経過率が高い点,上盤側の隆起速度が速く地質学的に見て比較的新しい断層深部の情報が得られうる点が特徴である.DFDP-2は,深度 1000 m 付近で断層を貫通させ,さらに深度1300 m 付近まで掘削することを目指し,ファタロア川で掘削が行われた.
DFDP-2 の掘削はPhase 1,Phase 2A-C,Phase 3 までの工程が考えられていた.Phase 1はケーシング挿入しながらの第四紀層掘削,Phase 2Aは着岩後の8.5”ビットによるノンコア掘削,Phase 2Bはアルパイン断層上盤のコアリング掘削,Phase 2Cはアルパイン断層下盤のコアリング掘削,Phase 3は埋め戻しと観測機器の設置である.Phase 2AとPhase 2Bの切り替えは,カッティングス観察によりマイロナイト帯に入ったかを確認することによる.これは断層に近づくにつれプロトマイロナイト→マイロナイト→カタクレーサイト→断層ガウジと変化するからである.またPhase 2Aの最終段階では,孔の崩壊を防ぐため,ケーシングと呼ばれる鉄管を挿入しその回りをセメントで固める計画になっていた.
Phase 2A では掘削深度893.18 m まで掘削した.しかしPhase 2Aの最終段階で,ケーシングの破断により掘削孔をセメントで埋めてしまい,掘削を断念せざるをえない状況になった.この他にも掘削中には多数のトラブルが発生した.
掘削の結果,アルパイン断層上盤側の厚さ240 m の堆積物の層序が明らかになった.また各種物理検層の結果も得られ,非火山地帯の1 km に満たない坑井で孔底温度が100℃を超えるほど地温勾配が高いことがわかった.カッティングスは 2 m 間隔で採取し,6 m間隔で薄片を製作し微細構造観察を行い,掘削孔内での岩相変化が明らかになった.さらに掘削中は泥水の密度,粘性を連続測定しており,断層上盤の水理特性に制約を与えることが期待される.
DFDP-2での当初目標は達成できなかった.しかしアルパイン断層は,掘削研究の対象としての価値が高い断層であり,2016年以降に再掘削を目指している.このためにはDFDP-2 掘削の技術的課題等を十分検討する必要があると思われる.