10:00 〜 10:15
[MIS24-10] 上越沖メタンハイドレート賦存海域に生息する生物群集の食物網解析
キーワード:メタンハイドレート, 底生生物, 食物網, 安定同位体比
海底堆積物中では、一般的に、光合成を利用して作られた有機物やその分解生成物に依存した生態系がひろがっている。その一方で、無機化合物(メタンや硫化水素等)の化学反応によりエネルギーを獲得する化学合成生態系の存在が知られている。メタン湧出域では、化学合成生物群集として大型生物(二枚貝、巻貝、甲殻類やハオリムシ)が卓越することがある。化学合成細菌を体内に共生するタイプの生物と化学合成細菌(バクテリアマット)を直接捕食するタイプの生物の2つにわけられる。また、それらの生物を捕食する生物も化学合成生態系の一員となる。日本海のメタン湧出域では、重要な漁業資源であるベニズワイガニが湧水の周りに集まる様子が観られる。また、深海の冷湧水や熱水噴出域でみられる化学合成生物群集の代表種として知られる巻貝のプロバンナの生息が確認されている。しかし、その生態とメタンが生み出す化学エネルギーとの関連性は明らかとなっていない。
そこで本研究では、上越沖メタンハイドレート賦存海域の生物群集の生態系を明らかにするため、カニ、ゲンゲ、バイ、ヨコエビ、ゴカイ等の炭素・窒素安定同位体比を測定し、食物網の解析を行った。炭素と窒素では摂食・同化の際の同位体分別効果が異なるため、捕食者と被食者の安定同位体比を比較することで、栄養起源と栄養段階の解析を行った。
2013年9月23日から30日にかけて、日本海上越沖のメタンハイドレート賦存海域として、海鷹海脚、鳥ヶ首海脚においてスラープガンやクマデを用いて底生生物をサンプリングした。また、MBARI採泥器を用いて表層0~2.5, 2.5~5 cmの堆積物試料のサンプリングを行った。メタン湧出域ではないレファレンスサイトとして上越海丘のサイトでもサンプリングを行った。底生生物試料は船上で解剖し、分析まで冷凍保存した。研究室に持ち帰った試料は、凍結乾燥により粉末状にし、銀製コンテナに秤量後、塩酸蒸気で無機炭素除去、NaOH蒸気で中和処理を行った。助燃のため、乾燥したサンプルをすず製コンテナで再梱包を行い、同位体比質量分析計 (Flash 2000, Thermo Scientific社) により炭素および窒素の安定同位体比の測定を行った。表層堆積物試料は、3%塩酸溶液を添加し、ホットプレートの上で脱炭酸処理を行ってから、秤量、梱包を行い、安定同位体比の測定を行った。
その結果、ベニズワイガニとノロゲンゲについて、メタン湧出の影響のないレファレンスサイトとメタンハイドレート賦存海域のシープサイトの両サイトで採取したが、その炭素・窒素安定同位体比の値に有意な違いはなかった。その他に、大型肉食生物のイカや一部のオオエッチュウバイがそれらと近い値を示した。ベニズワイガニについて、イカの捕食や共食いが海底において観察されているが、炭素・窒素安定同位体比の値から、小型甲殻類やプランクトン、懸濁態有機物等が主食と考えられた。つまり、ベニズワイガニはシープに集まる様子が観察されているが、食性はシープ依存ではなく、光合成生態系群集の一員であることが示唆された。
化学合成生物群集の代表種として知られるプロバンナが、シープサイトで採取され、炭素・窒素安定同位体比においてゴカイと近い値を示した。アゴゲンゲはその同位体比からプロバンナやゴカイを捕食していることが示された。実際に、アゴゲンゲの胃内容物の直接観察により、プロバンナを確認しており、プロバンナとアゴゲンゲは捕食-被食関係にあるといえる。プロバンナ、ゴカイ、アゴゲンゲの炭素安定同位体比は、前述した光合成生物群集である肉食動物等に比べて、軽い値を示し、それらは、化学合成細菌からなるバクテリアマットを利用する化学合成生物群集と考えられた。
一方、オオエッチュウバイはサイトによって異なる炭素・窒素安定同位体比を示した。オオエッチュウバイがサイトにより栄養起源と栄養段階が異なる餌を食べていることが示され、幼体、成体での食性の違いよりもサイトによる食性の違いが大きいことが明らかとなった。
今回の炭素・窒素安定同位体比の測定では、胃内容物の直接観察のような調査に比べ、さまざまな種において同様な処理を行い、食物網の解析を行うことができ、メタンハイドレート賦存海域に生息する生物群集がメタンシープに依存しているか否かを明らかにすることができた。
本研究は経済産業省のメタンハイドレート開発促進事業の一環として実施されたものである。
そこで本研究では、上越沖メタンハイドレート賦存海域の生物群集の生態系を明らかにするため、カニ、ゲンゲ、バイ、ヨコエビ、ゴカイ等の炭素・窒素安定同位体比を測定し、食物網の解析を行った。炭素と窒素では摂食・同化の際の同位体分別効果が異なるため、捕食者と被食者の安定同位体比を比較することで、栄養起源と栄養段階の解析を行った。
2013年9月23日から30日にかけて、日本海上越沖のメタンハイドレート賦存海域として、海鷹海脚、鳥ヶ首海脚においてスラープガンやクマデを用いて底生生物をサンプリングした。また、MBARI採泥器を用いて表層0~2.5, 2.5~5 cmの堆積物試料のサンプリングを行った。メタン湧出域ではないレファレンスサイトとして上越海丘のサイトでもサンプリングを行った。底生生物試料は船上で解剖し、分析まで冷凍保存した。研究室に持ち帰った試料は、凍結乾燥により粉末状にし、銀製コンテナに秤量後、塩酸蒸気で無機炭素除去、NaOH蒸気で中和処理を行った。助燃のため、乾燥したサンプルをすず製コンテナで再梱包を行い、同位体比質量分析計 (Flash 2000, Thermo Scientific社) により炭素および窒素の安定同位体比の測定を行った。表層堆積物試料は、3%塩酸溶液を添加し、ホットプレートの上で脱炭酸処理を行ってから、秤量、梱包を行い、安定同位体比の測定を行った。
その結果、ベニズワイガニとノロゲンゲについて、メタン湧出の影響のないレファレンスサイトとメタンハイドレート賦存海域のシープサイトの両サイトで採取したが、その炭素・窒素安定同位体比の値に有意な違いはなかった。その他に、大型肉食生物のイカや一部のオオエッチュウバイがそれらと近い値を示した。ベニズワイガニについて、イカの捕食や共食いが海底において観察されているが、炭素・窒素安定同位体比の値から、小型甲殻類やプランクトン、懸濁態有機物等が主食と考えられた。つまり、ベニズワイガニはシープに集まる様子が観察されているが、食性はシープ依存ではなく、光合成生態系群集の一員であることが示唆された。
化学合成生物群集の代表種として知られるプロバンナが、シープサイトで採取され、炭素・窒素安定同位体比においてゴカイと近い値を示した。アゴゲンゲはその同位体比からプロバンナやゴカイを捕食していることが示された。実際に、アゴゲンゲの胃内容物の直接観察により、プロバンナを確認しており、プロバンナとアゴゲンゲは捕食-被食関係にあるといえる。プロバンナ、ゴカイ、アゴゲンゲの炭素安定同位体比は、前述した光合成生物群集である肉食動物等に比べて、軽い値を示し、それらは、化学合成細菌からなるバクテリアマットを利用する化学合成生物群集と考えられた。
一方、オオエッチュウバイはサイトによって異なる炭素・窒素安定同位体比を示した。オオエッチュウバイがサイトにより栄養起源と栄養段階が異なる餌を食べていることが示され、幼体、成体での食性の違いよりもサイトによる食性の違いが大きいことが明らかとなった。
今回の炭素・窒素安定同位体比の測定では、胃内容物の直接観察のような調査に比べ、さまざまな種において同様な処理を行い、食物網の解析を行うことができ、メタンハイドレート賦存海域に生息する生物群集がメタンシープに依存しているか否かを明らかにすることができた。
本研究は経済産業省のメタンハイドレート開発促進事業の一環として実施されたものである。