16:15 〜 16:30
[MIS34-17] 大陸氷床発達期(MIS100-104)における氷床崩壊に伴う北大西洋深層流の変動
キーワード:氷山起源の漂流岩屑, 岩石磁気, 氷床崩壊, 海洋循環, 北大西洋深層流
大陸氷床の発達・崩壊は気候変動と密接に関係していると考えられているが、約2.75 Maに北半球に氷床が出現し、その後、発達していった時期の詳細な気候変動については未解明な点が多い。本研究では、北大西洋で掘削された堆積物コア試料について岩石磁気測定を行い、その結果と氷山起源の漂流岩屑(IRD)カウントの結果を比較することで、深層水循環と氷床崩壊との数千年スケールの関係が氷床の発達に伴ってどのように変化したのかについて議論を行う。既に同堆積物コア試料について、大陸氷床が初めて大規模に発達したとされる海洋酸素同位体ステージ(MIS)100付近(2.50-2.55 Ma)の分析結果が報告されている(大野ほか2014、JpGU)。本研究ではその直前に当たるMIS104付近(2.58-2.62 Ma)の試料について、岩石磁気測定とIRD数カウントを行い、その結果を解析してMIS100との比較を検討した。
測定に用いた試料は、IODP第306航海においてアイスランド南方のガーダードリフトで掘削されたコア試料(Site U1314: 北緯56度22分、西経27度53分、水深2820 m)である。この海域周辺はアイスランド北方で形成された北大西洋深層流の流路となっており、深層流がアイスランド周辺の玄武岩質の堆積物を輸送している。本研究では、239.5-245.5 mcd(m composite depth)の堆積層を2 cm間隔毎で分析した。Hayashi et al. (2010)の年代モデルを適用すると、約2.58-2.62 Maの間を約100年間隔で分析したことに相当し、堆積速度は約20 cm/kyrとなる。岩石磁気測定では、凍結乾燥させた試料約5-10 mgを10 mm × 8 mmのアルミ箔に包み行った。交番磁場勾配磁力計(MicroMag 2900, Princeton Measurement Corporation)を用いて、磁気ヒステリシス測定、S-ratio測定(Mr-100mT /Mr1T)、等温残留磁化(IRM)獲得曲線測定を行った。IRM獲得曲線測定では、交流消磁の後、1 mT - 1 T まで30段階で測定を行った。IRD数カウントでは、堆積物試料0.5 gあたりのIRD(粒径150μm以上)数をカウントした。
IRD数カウントの結果、約2.602Maと約2.610MaにIRDの堆積するイベントが確認された。約2.602MaのIRDイベントでは最大約5200個/g、約2.610MaのIRDイベントでは最大約700個/gのIRD粒子が確認された。
岩石磁気測定の結果、氷期・間氷期サイクルに対応する長周期の保磁力変化と、約2.602Maと約2.610MaのIRDイベントに対応する急激な保磁力変化の2種類の変化が確認された。また、ガウス・松山地磁気逆転境界において、約5千年間の保磁力の低下が確認された。測定した全ての試料のIRM獲得曲線は高保磁力成分と低保磁力成分の2成分で成分分解が可能であった。これらの成分比は北大西洋深層流によって輸送される玄武岩質の堆積物の含有量変化で解釈できる。この成分比の変化は北大西洋深層流の変動を示し、氷期に北方からの深層流が弱まり低保磁力成分が増大する一方、間氷期に深層流の形成が強まり、高保磁力成分が増大したと考えられる。
長周期の変化としては、2.58-2.61Maの約3万年間に高保磁力成分が大きく変動した。また、約2.602 MaのIRDイベントに対応する変化として、約1000年間に約73%から5%まで68%の急激な高保磁力成分の低下が起こり、その後、約1万年間かけて緩やかにIRDイベント前の割合に回復していくことが確認できた。約2.610MaのIRDイベントの前後ではわずかな高保磁力成分の低下が認められた。
IRDイベントにおける深層流の変化はMIS100付近の堆積物試料でも確認され、高保磁力成分の急激な減少と緩やかな増加を示した。MIS104で確認された変化はMIS100における変化と振幅・絶対値において同程度の値である。したがって、MIS100と同様にMIS104においても、氷床の崩壊に伴う北大西洋深層流の同規模の変動が起きていたと推測できる。北半球の大陸氷床はMIS100以降から大規模に発達したとされているが、北大西洋ではMIS100以前のMIS104で既にMIS100と同様の氷床崩壊を伴う深層水の循環システムが確立されていたと考えられる。
測定に用いた試料は、IODP第306航海においてアイスランド南方のガーダードリフトで掘削されたコア試料(Site U1314: 北緯56度22分、西経27度53分、水深2820 m)である。この海域周辺はアイスランド北方で形成された北大西洋深層流の流路となっており、深層流がアイスランド周辺の玄武岩質の堆積物を輸送している。本研究では、239.5-245.5 mcd(m composite depth)の堆積層を2 cm間隔毎で分析した。Hayashi et al. (2010)の年代モデルを適用すると、約2.58-2.62 Maの間を約100年間隔で分析したことに相当し、堆積速度は約20 cm/kyrとなる。岩石磁気測定では、凍結乾燥させた試料約5-10 mgを10 mm × 8 mmのアルミ箔に包み行った。交番磁場勾配磁力計(MicroMag 2900, Princeton Measurement Corporation)を用いて、磁気ヒステリシス測定、S-ratio測定(Mr-100mT /Mr1T)、等温残留磁化(IRM)獲得曲線測定を行った。IRM獲得曲線測定では、交流消磁の後、1 mT - 1 T まで30段階で測定を行った。IRD数カウントでは、堆積物試料0.5 gあたりのIRD(粒径150μm以上)数をカウントした。
IRD数カウントの結果、約2.602Maと約2.610MaにIRDの堆積するイベントが確認された。約2.602MaのIRDイベントでは最大約5200個/g、約2.610MaのIRDイベントでは最大約700個/gのIRD粒子が確認された。
岩石磁気測定の結果、氷期・間氷期サイクルに対応する長周期の保磁力変化と、約2.602Maと約2.610MaのIRDイベントに対応する急激な保磁力変化の2種類の変化が確認された。また、ガウス・松山地磁気逆転境界において、約5千年間の保磁力の低下が確認された。測定した全ての試料のIRM獲得曲線は高保磁力成分と低保磁力成分の2成分で成分分解が可能であった。これらの成分比は北大西洋深層流によって輸送される玄武岩質の堆積物の含有量変化で解釈できる。この成分比の変化は北大西洋深層流の変動を示し、氷期に北方からの深層流が弱まり低保磁力成分が増大する一方、間氷期に深層流の形成が強まり、高保磁力成分が増大したと考えられる。
長周期の変化としては、2.58-2.61Maの約3万年間に高保磁力成分が大きく変動した。また、約2.602 MaのIRDイベントに対応する変化として、約1000年間に約73%から5%まで68%の急激な高保磁力成分の低下が起こり、その後、約1万年間かけて緩やかにIRDイベント前の割合に回復していくことが確認できた。約2.610MaのIRDイベントの前後ではわずかな高保磁力成分の低下が認められた。
IRDイベントにおける深層流の変化はMIS100付近の堆積物試料でも確認され、高保磁力成分の急激な減少と緩やかな増加を示した。MIS104で確認された変化はMIS100における変化と振幅・絶対値において同程度の値である。したがって、MIS100と同様にMIS104においても、氷床の崩壊に伴う北大西洋深層流の同規模の変動が起きていたと推測できる。北半球の大陸氷床はMIS100以降から大規模に発達したとされているが、北大西洋ではMIS100以前のMIS104で既にMIS100と同様の氷床崩壊を伴う深層水の循環システムが確立されていたと考えられる。