日本地球惑星科学連合2015年大会

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口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS21] 惑星科学

2015年5月24日(日) 09:00 〜 10:45 A02 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*黒澤 耕介(千葉工業大学 惑星探査研究センター)、濱野 景子(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、座長:濱野 景子(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、黒澤 耕介(千葉工業大学 惑星探査研究センター)

09:15 〜 09:30

[PPS21-02] 御池山クレーターで発見したspheruleに隕石物質を含む可能性

*坂本 正夫1蜷川 清隆2西戸 裕嗣2グチック アーノルド3 (1.飯田市美術博物館、2.岡山理科大学、3.ヨハネスブルグ大学)

キーワード:御池山クレーター, インパクト, スフェリュール, 黄鉄鉱, ニッケル, 隕石物質

1 はじめに
長野県飯田市しらびそ高原では、御池山クレーターからインパクトを示す衝撃変形石英が報告された(Sakamoto et al、2010)。この構造では負の重力異常も報告された(坂本・志知、2011)。また、fallbackした角礫層も存在していることが明らかになっている。この度、クレーターの周辺からspheruleを多数発見し、その組織や成分などを分析したので報告する。
2 spheruleの分布と産状
 御池山クレーターは直径約900mでその半分以上が欠けた地形になっている。クレーター縁から外側へ約400m離れた丘の斜面を約1m掘った土壌の中から、spheruleが密に詰まった偽礫(rip-up crust)を多数発見した。偽礫は粘土質の土壌の中に散在し、半固結で強く握ると壊れる程度の硬さがある。偽礫は、約8割がspheruleの完全体や破片で占め、約1割は周辺の地質の岩片で、その他はマトリックスの泥である。
3 spheruleの形態
 御池山で見つかったspheruleは、概ね直径0.2mm~0.02mmの範囲で、主に白色で表面がざらついた球状や円盤状・楕円状・多角面状などの形状をもつチャート質の岩石である。こうした形状が保たれた完全体のspheruleはたいへん少なく、多くは割れて形状がはっきりしない破片である。spheruleは、半透明のものが多く内部がおぼろげに見えるものが多い。spheruleの内部や表面に酸化した金属などの不透明物質が散らばっていたり、pyrite(黄鉄鉱)の結晶が食い込んでいたりする粒子もある。spheruleの集合内にはpyriteの大小の結晶固体も混ざっている。
4 光学顕微鏡の観察
 薄片にして光学顕微鏡で観察すると、オープンニコルではほとんど組織は見えないが、クロスニコルでは、多様な色や組織で不均質な組織が観察できる。spheruleの内部は、再結晶して波動消光するものや、微晶質から隠微晶質になっているもの、小さなspheruleが取り込まれたり合体したりしているもの、spheruleの縁を異なった物質が覆っているものなどがある。また、中心付近に核となった不透明物質があるものや、同心円状になっているものもある。
5 LA-ICP- MS分析の結果
 レーザーアブレーションによる誘導結合プラズマ質量分析(LA-ICP- MS)で、spheruleの元素イオン強度を測定して元素分布のマッピングを行なった。その結果、spheruleの各粒子や破片では、たいへん不均質な元素分布を示していることが分かった。特にNi、V、Cr、Mg、Mn、Feの元素で不均質に高い濃度を示す部分があった。粒子によっては内部まで高濃度を示すものもあるが、spheruleの縁に沿った部分だけが高い値を示すものもあった。似た事例はオーストラリアなどから報告されている(Izmer et al, 2013)。
これらの元素の内Ni、V、Crは、御池山一帯の地質や火山灰にはほとんど含まれない元素である。御池山一帯は、砂岩・泥岩・チャートの互層から成る付加体の比較的単純な地質であり、火山岩や深成岩・変成岩は存在しない。御池山一帯の地質の成分はSiO2が圧倒的な割合を占めている。また、日本列島の広域の火山灰や中部日本の火山灰も降っているが、鉄鉱類はほとんど磁鉄鉱とチタン鉄鉱であり、pyrite(FeS2)は含まれない。それにも関わらずこのspherule層にはpyriteのみが目立つ。このような現地の地質とspheruleとの成分の違いは、小規模なクレーターからも報告されている(Reimold et al, 1998)。
 以上の検討から、このspheruleに検出された高濃度で不均質の元素は、隕石物質である可能性が高い。落下してくる隕石の多くは、大気圏に突入しながら蒸発して雲状に散布される。同時に御池山では衝突して舞い上がった山体の極微粒子が、隕石の蒸気と混じり合ってspheruleが形成される。そのため、隕石成分も不均質に入り込んだものと見られる(Goderis et al, 2013)。
6 引用文献
M.Sakamoto, et al, 2010, Meteorit. & Planet. Sci. 45,  坂本・志知,2010,日本惑星科学会誌 19,4, Izmer et al, 2013,J.Anal.At.Spectrom,28. Reimold et al, 1998 J. of African Earth Sci.  Goderis et al, 2013、2013,Earth & Planet.Sci.376.