日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気水圏科学複合領域・一般

[A-CG31] 北極域の科学

2015年5月26日(火) 09:00 〜 10:45 201B (2F)

コンビーナ:*竹内 望(千葉大学)、檜山 哲哉(名古屋大学地球水循環研究センター)、平譯 享(北海道大学大学院水産科学研究院)、田中 博(筑波大学計算科学研究センター)、野澤 悟徳(名古屋大学太陽地球環境研究所)、座長:竹内 望(千葉大学)

09:45 〜 10:00

[ACG31-14] 北極圏グリーンランドカナック氷帽の積雪観測に基づいた雪氷藻類の繁殖条件の推定

*大沼 友貴彦1竹内 望1田中 聡太1植竹 淳2永塚 尚子2庭野 匡思3青木 輝夫3 (1.千葉大学理学研究科、2.国立極地研究所、3.気象研究所)

キーワード:雪氷藻類, 赤雪, クロロフィルa, 積算気温, グリーンランド

雪氷藻類とは,積雪や氷河上に繁殖する寒冷環境に適応した光合成微生物である.雪氷藻類の繁殖は雪氷表面の色を変化させ,アルベド(反射率)を低下させる.雪氷表面のアルベドが低下すると太陽光の吸収量が増加し,雪氷の融解が促進され,気温や海面の上昇といった地球環境への影響が考えられる.そのため,雪氷藻類がどのような環境で繁殖するのかを明らかにすることは,北極域の融雪への影響を考える上で重要である.しかしながら,雪氷藻類の繁殖に最も影響を与える要因が何かはまだ明らかになっていない.
そこで本研究は,グリーンランド北西部にあるカナック氷帽上の積雪において雪氷藻類の繁殖開始時期を決定する要因を明らかにすることを目的とした.本研究では,2013年および2014年の6月から8月にかけてグリーンランド北西部のカナック氷帽 (N 77°, W 69°) の積雪で観測を行った.対象サイトは積雪上に赤雪現象が確認された2地点 (Site-A 550m a.s.l, Site-B 950m a.s.l) とし,1週間間隔で積雪表面の観測,雪サンプルの採取を行った.採取した雪サンプルから,顕微鏡による細胞数のカウントとクロロフィルa (Chl-a) の蛍光分析を行い,雪氷藻類のバイオマスを評価した.雪氷藻類の発生と繁殖の主な要因を明らかにするために,雪氷藻類のバイオマスと観測した気象データ,融雪量との比較を行った.
赤雪現象は,2013年はSite-Aで8月3日に確認され,Site-Bでは8月上旬の観測終了まで確認されなかったのに対し,2014年はSite-Aで7月20日,Site-Bで8月3日に確認された.積雪表面のChl-a濃度は,赤雪の発生とともに増加を開始し,8月上旬まで20 [μg m-2]から70 [μg m-2]に至るまで増加した.顕微鏡カウントから求めた細胞濃度の変化も同様の傾向を示した.日平均気温が初めて0℃を超えたのは,2013年のSite-Aでは6月8日,2014年のSite-AとSite-Bでは6月2日であり,その日から赤雪発生までの期間は,それぞれ49-63日間であった.また,その日から赤雪発生までの正の積算気温は,2013年のSite-Aで106-140℃ day,2014年のSite-Aで116-141℃ day,2014年のSite-Bで93-107 ℃ dayであった.赤雪の発生時期と日射量,積雪密度,積雪含水率,pH,電気伝導度といった雪の物理条件,化学条件との関係は見られなかった.これらの結果は,雪氷藻類の繁殖の開始には,以上のような積雪の物理的化学的変化ではなく,一定期間の融雪または一定の正の積算気温が必要であることを示唆している.