日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS26] 生物地球化学

2015年5月28日(木) 16:15 〜 18:00 104 (1F)

コンビーナ:*楊 宗興(東京農工大学)、柴田 英昭(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター)、大河内 直彦(海洋研究開発機構)、山下 洋平(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、座長:岩田 智也(山梨大学生命環境学部)、角皆 潤(名古屋大学大学院環境学研究科)、稲垣 善之(森林総合研究所)、藤井 一至(森林総合研究所)

17:45 〜 18:00

[MIS26-28] アラスカ内陸部の火災履歴の異なるクロトウヒ林における地下部への炭素インプット

*野口 享太郎1森下 智陽1Yongwon Kim2松浦 陽次郎1 (1.森林総合研究所、2.アラスカ大学国際北極圏研究センター)

キーワード:永久凍土, 森林火災, リターフォール, 細根, 林床蘚類

永久凍土林は面積にして亜寒帯林の20%以上を占める。これらの永久凍土林は凍土中の炭素蓄積量が極めて大きいことから、陸域生態系の炭素動態において重要な役割を担う。しかし最近の報告は、永久凍土生態系が気候変動や環境かく乱に対して脆弱なため、今後、この地域からのCO2など温室効果ガスを含む炭素の放出量が増大する可能性があることを示唆している。
 アラスカ内陸部では、永久凍土は水はけの悪い北向き斜面や低地に分布しており、これらの永久凍土上にはクロトウヒ林が成立している。これらのクロトウヒ林では、森林火災が更新に必要なプロセスであり、100-200年に一度の頻度で火災が生じている。しかし、最近の報告は、永久凍土地帯における火災の頻度が過去数十年間に増加していることや、森林に対する火災の影響がその強度や履歴により異なることを示唆している。したがって、永久凍土林生態系の炭素動態について理解するためには、強度や履歴の異なる火災がこれらの森林に及ぼす影響について明らかにする必要がある。
 本研究では、それぞれ2004年、1999年、1920年頃に火災のあった3箇所のクロトウヒ林における地下部への炭素インプット量について調査した。2004年と1920年の火災は、林分の更新につながる強い火災であったが、1999年の火災は弱い火災で、林分の一部のみを燃焼させた。調査時の2004年火災区、1999年火災区の地上部現存量は、1920年区(90年生クロトウヒ林、2.6 kg m-2)のそれぞれ約8%、38%であった。本研究では、2009年の夏にこれらの3林分に調査プロットを設置し、地下部への炭素インプットの主要な構成要素であるリターフォール生産量、細根生産量、林床蘚類の生産量について調査した。
 2004年火災区、1999年火災区、1920年火災区におけるリターフォール生産量は20.5、21.8、30.3 g m-2 y-1、細根生産量は48.0, 47.0 and 64.5 g m-2 y-1、林床蘚類の生産量は46.4, 33.3 and 37.7 g m-2 y-1と推定された。また、これらの要素の炭素含有率を50%(0.5 g g-1)と仮定して計算した結果、2004年火災区、1999年火災区、1920年火災区における地下部への炭素インプット量は57.5, 51.0 and 66.5 g C m-2 y-1と推定された。これらの結果は、本研究の調査地では、地上部現存量が火災の影響が小さかった1999年火災区においても減少したままであったのに対し、地下部への炭素インプット量は、火災後5-10年の間に火災前のレベルまで回復したことを示唆している。この地下部への炭素インプットの早い回復は、火災後の下層植生のリターフォール量、細根生産量の増加や、林床植生(蘚類)の種組成の変化によるものと考えられる。