日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG60] 流体と沈み込み帯のダイナミクス

2015年5月25日(月) 14:15 〜 16:00 201A (2F)

コンビーナ:*片山 郁夫(広島大学大学院理学研究科地球惑星システム学専攻)、岡本 敦(東北大学大学院環境科学研究科)、川本 竜彦(京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設)、座長:川本 竜彦(京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設)

15:15 〜 15:30

[SCG60-12] 沈み込み帯の断層における地震時の流体岩石相互作用:断層岩の化学分析からのアプローチ

*石川 剛志1 (1.海洋研究開発機構高知コア研究所)

キーワード:流体岩石相互作用, 断層岩, 地震, 地球化学, 沈み込み帯

断層岩の金属微量元素・同位体分析は,地震時の断層における流体岩石相互作用の理解に有効であることが最近明らかとなってきた。原岩と流体の組成が既知であれば,断層岩の微量元素・同位体組成の変化と,固相/流体間における元素の分配係数に基づき,地震時の流体岩石相互作用の有無および温度を見積もることができる。例えば,1999年台湾集集地震で活動したチェルンプ断層や,房総付加体中の化石断層においては,断層すべり帯に明瞭な微量元素組成の変化(Li, Rb, Csの減少,Srの増加等)が認められ,地震時に350℃以上の高温流体岩石相互作用が生じたことが明らかとなっている(Ishikawa et al., 2008; Hamada et al., 2011)。また,四万十付加体久礼地域の化石断層では,地震時に摩擦溶融によるシュードタキライトの生成に先行して350℃以上の流体岩石相互作用が生じていたことが明らかとなった(Honda et al., 2011)。地震時の断層すべり帯の摩擦加熱は長くても数10秒のタイムケールであるため,地震時の流体岩石相互作用の痕跡が断層岩に記録されるのはそれ自体驚くべきことであるが,実際に湿条件での高速摩擦実験により,300℃程度でも短時間に断層岩の微量元素組成に変化が生じることが明らかとなってきている(Tanikawa et al., submitted)。これは,地震時の断層すべり帯では動的破壊による超微細粒子形成で,流体岩石相互作用に与する非常に大きな表面積が確保され続けることによると考えられる。
このような断層岩の地球化学的解析は,熱圧化(thermal pressurization)等,断層すべりのメカニズムの理解に有効であるが,一方で沈み込み帯の断層を流れる流体の組成に制約を与えることも可能である。中央構造線安康地域の断層帯では,断層すべり帯のみに明瞭なLiの増加とSr同位体比の上昇が認められた。中央構造線沿いに湧出する高Li/Naの有馬型冷湧水の組成を用いてモデル計算を行うと,断層岩の組成的特徴は最高250℃の流体岩石相互作用でよく説明される(Ishikawa et al., 2014)。このことは,地震時の断層すべりが深部から上昇してきた高Li/Naの流体の存在下で起こったことを示している。また,かつての地震発生帯深度におけるプレート境界断層と見なされるコディアック付加体の断層帯では,すべり帯の岩石に,350℃以上の流体岩石相互作用を特徴づけるRb, Csの減少,Srの増加とともに,チェルンプ・房総(深度1~2 km程度)では見られないLiの顕著な増加が認められた(Yamaguchi et al., 2014)。これも,高Liの流体の存在下での断層すべりを反映している可能性が高い。
このような地球化学的手法の展望と今後の課題についても紹介する。