日本地球惑星科学連合2015年大会

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口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気水圏科学複合領域・一般

[A-CG33] 陸海相互作用-沿岸生態系に果たす水・物質循環の役割-

2015年5月26日(火) 09:00 〜 10:45 202 (2F)

コンビーナ:*杉本 亮(福井県立大学海洋生物資源学部)、山田 誠(総合地球環境学研究所)、小野 昌彦(産業技術総合研究所)、小路 淳(広島大学大学院生物圏科学研究科)、座長:杉本 亮(福井県立大学海洋生物資源学部)、小路 淳(広島大学大学院生物圏科学研究科)

09:00 〜 09:18

[ACG33-01] 鉄と湧水:沿岸海域生態系の物質循環で無視されてきたこと

*山本 民次1 (1.広島大学大学院生物圏科学研究科)

キーワード:栄養塩, 物質循環, 鉄, 湧水

沿岸海域の物質循環は、塩分の空間的傾斜が明瞭なエスチュアリーであれば、水と塩分から、LOICZ (Land-Ocean Interaction in the Coastal Zones) Working Groupが提唱している標準的な方法で計算できる。しかし、このマニュアルでは、地下水からの物質の負荷量は、分からない場合は無視する、と書かれている。地下水による沿岸域への物質の負荷の寄与は、当然、海域によって異なるが、流量が小さいとはいえ、地下を通ってくる間にさまざまな物質が溶存するため、負荷量としては、多い場合には河川水と同等程度になる可能性があると考えられる。
 我が国沿岸域では、物質の流入負荷の削減により、赤潮の発生が減り、透明度も増加している。他方、ノリその他の水産生物が育たないほど貧栄養化している海域もあることが知られてきた。
 不思議なことに、流入負荷量削減にもかかわらず、底層の貧酸素状態の改善はほとんど見られない。このことから、貧酸素水塊の形成が有機物の酸化分解だけでなく、還元環境で生成される硫化水素による化学的酸素消費にあることが分かってきた。硫化水素はまた鉄と化合し易く、海水中の溶存鉄濃度を低下させる大きな要因となっている。このため、鉄不足による藻類の一次生産量の低下が危惧されるところである。
 著者は、最近、太田川-広島湾流域圏において、河川上流から海域にかけて溶存鉄濃度を測定するとともに、海底湧水中の成分に関する調査を始めた。それらの分析結果を報告し、今後の沿岸域の物質循環研究の方向性を議論するきっかけとしたい。