日本地球惑星科学連合2015年大会

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ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気水圏科学複合領域・一般

[A-CG33] 陸海相互作用-沿岸生態系に果たす水・物質循環の役割-

2015年5月26日(火) 18:15 〜 19:30 コンベンションホール (2F)

コンビーナ:*杉本 亮(福井県立大学海洋生物資源学部)、山田 誠(総合地球環境学研究所)、小野 昌彦(産業技術総合研究所)、小路 淳(広島大学大学院生物圏科学研究科)

18:15 〜 19:30

[ACG33-P01] 東部瀬戸内海における基礎生産

*安佛 かおり1一見 和彦2山口 一岩3大美 博昭4秋山 諭4宮原 一隆5山本 昌幸6笠井 亮秀7 (1.京都大学森里海連環学教育ユニット、2.香川大学瀬戸内圏研究センター、3.香川大学大学院農学研究科、4.大阪府立環境農林水産総合研究所、5.兵庫県水産技術センター、6.香川県水産試験場、7.京都大学フィールド科学教育研究センター)

キーワード:瀬戸内海, 一次生産, 植物プランクトン

瀬戸内海は,かつて富栄養の海として捉えられていたが,近年では,栄養塩負荷削減に伴ってその状態が解消しつつある.その一方,ノリ養殖に対する栄養塩不足や多くの魚介類の漁獲量減少など新たな問題が生じている.これらの諸問題は,高度成長期以降現在まで,生態系構造が変化してきていることを示唆している.瀬戸内海においては,1960-90年代に広域で基礎生産速度が測定されているが,近年のデータは限られている.そこで本研究では,東部瀬戸内海で基礎生産量を測定し,栄養塩負荷削減に伴う基礎生産構造の変化を調べた.
本研究では,大阪湾に2定点,播磨灘に2定点,備讃瀬戸に2定点,燧灘に1定点を設けた.各定点において,透明度の2.8倍を海面への入射光が1%となる深度(補償深度)と仮定し,入射光の100,48,33,14,8.3%となる各深度から採水を行った.試水は 300 μmメッシュのネットで濾して動物プランクトンを除去した.ただし,細胞径が300 μm以上となる大型珪藻種が観察されたときはネットを介さなかった.持ち帰った試水を1Lのポリカーボネイト容器2本に分取し,13Cで標識した重炭酸ナトリウムを全炭酸量の10%になるように添加した後,人工気象器で約2時間培養した.培養温度は現場表層水温に合わせ,光強度は,最大光度を460-480 mol m-2 sec-1とし,遮光フィルターにより減衰させ各深度での値に合わせた.培養時間経過後,ガラス繊維ろ紙(GF/F)を用いて懸濁物を捕集し,培養前後の濾物に含まれる13C量と現場水の全炭酸量から基礎生産量を求めた(Hama et al., 1983).基礎生産の測定は,2013年9,11月,2014年2,5,8月に行った.
測定された基礎生産量は測定日間で差異がみられた(Fig. 1).基礎生産量は,2013年9月,11月および2014年8月と比べて,2013年2,5月は全体的に低い値を示した. 1979-80年(Uye et al., 1986)と1993-94年(Tada et al., 1998)の調査では,本研究と同様に,基礎生産量が冬季(1月)に低いことが示されている.一方,彼らの春季(4月)の測定結果は,夏季や秋季との間に差異はなく,本研究の春季(5月)の結果とは異なっていた.
夏・秋季の調査(2013年9,11月,2014年8月)では,基礎生産は地点間で大きく変動した.大阪湾の湾央と燧灘では調査期間を通じて低い値を示し,大阪湾の湾奥,播磨灘,備讃瀬戸の測点は調査日ごとに大きく変動した.調査区域での最大値は,2013年9,11月には播磨灘で,2014年8月には大阪湾の湾奥でみられた.2014年2,5,8月の基礎生産は,大阪湾の湾奥で最大値を示し,播磨灘,備讃瀬戸,燧灘の順で低下した.一方,2013年9月,11月は上記と異なる分布性状を示し,備讃瀬戸の定点でも高い基礎生産がみられた.これは,備讃瀬戸での低い値について記述したTada et al. (1998) の結果とは異なるものであった.
夏・秋季の調査における基礎生産の最大値は,1.0-1.6 gC m-2 day-1であり,これは1993-94年の夏・秋季の最高値と同程度であった.しかし,前述したように5月の値が全体的に低かったことや,2014年8月の備讃瀬戸と燧灘の値が1993-94年7月・10月の値より低いなど,過去との相違点もみられた.今後,基礎生産構造の変化について議論を深めていくためにも,本研究でみられた基礎生産の分布変動を引き起こした要因について,解析を進めていく必要がある.

引用文献
Hama et al. (1983): Marine Biology, 73, 31-36.
Tada et al. (1998): J. Oceanogr., 54, 285-295.
Uye et al. (1987): J. Oceanogr. Soc. Japan, 42, 421-434.