11:00 〜 11:15
[PPS22-07] I型コンドリュールの再現実験
キーワード:コンドリュール, I型, コンドリュール形成, 再現, 実験的研究
はじめに
コンドリュール再現実験はこれまで主として全圧1気圧のIW-0.5の酸素分圧下で行われてきた。この条件ではFeO成分に富むII型コンドリュールを形成する。本研究では、IW-3からIW-5でコンドリュールの再現実験を行った。この条件では、FeO成分に乏しいI型コンドリュールを形成する。I型コンドリュールの再現実験はCohen and Hewins (2004)で試みられているが、急冷実験に限られる。本研究では、100 ℃/h付近の冷却速度で、I型コンドリュールの組織・組成の再現を目的として実験を行った。
実験
出発物質として、(1) Allende隕石(CV3.2)、(2) NWA1465隕石(グループ化されてない炭素質コンドライト)、および(3) コンドライト組成の粉末調合試薬(金属鉄、サンカルロスオリビン、タンザニア産エンスタタイト、三宅島産アノーサイト、アフガニスタン産ディオプサイド)、の3種の粉末焼結体を用いた。粉末焼結体は、主に水素雰囲気下で、最高温度950 ℃で1分間加熱、270 ℃/hの昇温・冷却速度で作成した。コンドリュール再現実験は、ピーク温度は1200-1550 ℃、冷却速度は80-10000 ℃/hの範囲で、容器内には試料と直接接しないようにシリカガス源を用いる場合と、用いない場合とで行った。用いた炉は、還元雰囲気用の大気圧以下に圧力制御可能な低圧炉で、全圧は主に約100 Paに設定した。実験容器は、上部に1 mm径の穴を開けたアルミナ容器内に、0.2 mm径のモリブデンワイヤーで粉末焼結体を吊るす。シリカ粉末を用いる場合は、容器の底に置いた。容器内物質の蒸気圧は、最高温度の1450 ℃付近で1 Pa程度である。アルミナ容器の外は水素ガスで全圧を約100 Paに制御すると、アルミナ容器内に水素ガスは流入し、容器内部も全圧は外部と同じになる。この時、熱化学計算によりピーク温度(1450 ℃)でシリカ粉末がある時の酸素分圧はIW-3で、シリカ粉末がない時は、IW-4と求まる。(1)および(2)は金属鉄に乏しい組成を出発物質とする実験で、これまでに計53回(シリカガスあり23回、なし30回)、(3)は金属鉄を多く含む組成で、計21回(同様に11回、10回)行った。実験生成物は、研磨片にして、エレクトロン・プローブ・マイクロ・アナライザー(JXA-8200)で組織観察と、主要構成鉱物、ガラス、およびバルクの分析を行った。
結果・議論
Allende隕石、NWA1465隕石の焼結体を用いた実験において、ピーク温度が1450 ℃、冷却速度が100 ℃/hで、丸みのあるかんらん石(フォルステライト)をエンスタタイト斑晶が取り囲むポイキリティック組織を呈するI型コンドリュールに類似する組成と組織を有する生成物を得た。このかんらん石は、”溶け残り鉱物”で、鉄に富むかんらん石が還元した組織を呈する”dusty olivine”およびフォルステライトの2種の溶け残りかんらん石が確認できた。これはコンドリュール組織にも共通している。この組織・組成は、シリカガス源がある実験で顕著で、I型コンドリュールによく類似する。しかし、炭素質コンドライトのI型コンドリュールには通常、多数の丸い数ミクロン径の金属鉄粒子をポイキリティックに含むが、実験生成物には多くない。全岩組成変化を求めたところ、鉄成分は大きく減少していた。試料保持に用いたモリブデンワイヤーへの鉄成分の吸収は、ワイヤー断面の分析から評価したところ、全岩組成変化に比べて、1桁小さい。したがって、鉄成分は金属鉄に還元することなく、蒸発していると考えられる。
調合試薬を用いた実験では、ピーク温度が1500 ℃以上で、金属鉄が溶融し一塊になる傾向が認められた。1500 ℃未満では、低溶融のため、金属鉄は試料内部では均一に分布したが、試料表面では金属鉄の欠損が見られた。これは試料表面付近の金属鉄が蒸発したと考えられる。これらの組織は、いずれも天然のコンドリュール組織とは一致しない。
以上の実験結果を考慮すると、金属鉄を含む前駆物質よりも金属鉄に乏しい前駆物質がI型コンドリュールを作った可能性がある。しかしながら、炭素質コンドライト中のI型コンドリュールに多産する丸い金属粒子の起源として、微小な溶融した金属鉄粒子はコンドリュール溶融時に外部より注入されたか、コンドリュール形成時に気相が鉄に飽和していた可能性がある。
文献
Cohen B. A. and Hewins R. H. 2004. Geochim. Cosmochim. Acta 68, 1677-1689.
コンドリュール再現実験はこれまで主として全圧1気圧のIW-0.5の酸素分圧下で行われてきた。この条件ではFeO成分に富むII型コンドリュールを形成する。本研究では、IW-3からIW-5でコンドリュールの再現実験を行った。この条件では、FeO成分に乏しいI型コンドリュールを形成する。I型コンドリュールの再現実験はCohen and Hewins (2004)で試みられているが、急冷実験に限られる。本研究では、100 ℃/h付近の冷却速度で、I型コンドリュールの組織・組成の再現を目的として実験を行った。
実験
出発物質として、(1) Allende隕石(CV3.2)、(2) NWA1465隕石(グループ化されてない炭素質コンドライト)、および(3) コンドライト組成の粉末調合試薬(金属鉄、サンカルロスオリビン、タンザニア産エンスタタイト、三宅島産アノーサイト、アフガニスタン産ディオプサイド)、の3種の粉末焼結体を用いた。粉末焼結体は、主に水素雰囲気下で、最高温度950 ℃で1分間加熱、270 ℃/hの昇温・冷却速度で作成した。コンドリュール再現実験は、ピーク温度は1200-1550 ℃、冷却速度は80-10000 ℃/hの範囲で、容器内には試料と直接接しないようにシリカガス源を用いる場合と、用いない場合とで行った。用いた炉は、還元雰囲気用の大気圧以下に圧力制御可能な低圧炉で、全圧は主に約100 Paに設定した。実験容器は、上部に1 mm径の穴を開けたアルミナ容器内に、0.2 mm径のモリブデンワイヤーで粉末焼結体を吊るす。シリカ粉末を用いる場合は、容器の底に置いた。容器内物質の蒸気圧は、最高温度の1450 ℃付近で1 Pa程度である。アルミナ容器の外は水素ガスで全圧を約100 Paに制御すると、アルミナ容器内に水素ガスは流入し、容器内部も全圧は外部と同じになる。この時、熱化学計算によりピーク温度(1450 ℃)でシリカ粉末がある時の酸素分圧はIW-3で、シリカ粉末がない時は、IW-4と求まる。(1)および(2)は金属鉄に乏しい組成を出発物質とする実験で、これまでに計53回(シリカガスあり23回、なし30回)、(3)は金属鉄を多く含む組成で、計21回(同様に11回、10回)行った。実験生成物は、研磨片にして、エレクトロン・プローブ・マイクロ・アナライザー(JXA-8200)で組織観察と、主要構成鉱物、ガラス、およびバルクの分析を行った。
結果・議論
Allende隕石、NWA1465隕石の焼結体を用いた実験において、ピーク温度が1450 ℃、冷却速度が100 ℃/hで、丸みのあるかんらん石(フォルステライト)をエンスタタイト斑晶が取り囲むポイキリティック組織を呈するI型コンドリュールに類似する組成と組織を有する生成物を得た。このかんらん石は、”溶け残り鉱物”で、鉄に富むかんらん石が還元した組織を呈する”dusty olivine”およびフォルステライトの2種の溶け残りかんらん石が確認できた。これはコンドリュール組織にも共通している。この組織・組成は、シリカガス源がある実験で顕著で、I型コンドリュールによく類似する。しかし、炭素質コンドライトのI型コンドリュールには通常、多数の丸い数ミクロン径の金属鉄粒子をポイキリティックに含むが、実験生成物には多くない。全岩組成変化を求めたところ、鉄成分は大きく減少していた。試料保持に用いたモリブデンワイヤーへの鉄成分の吸収は、ワイヤー断面の分析から評価したところ、全岩組成変化に比べて、1桁小さい。したがって、鉄成分は金属鉄に還元することなく、蒸発していると考えられる。
調合試薬を用いた実験では、ピーク温度が1500 ℃以上で、金属鉄が溶融し一塊になる傾向が認められた。1500 ℃未満では、低溶融のため、金属鉄は試料内部では均一に分布したが、試料表面では金属鉄の欠損が見られた。これは試料表面付近の金属鉄が蒸発したと考えられる。これらの組織は、いずれも天然のコンドリュール組織とは一致しない。
以上の実験結果を考慮すると、金属鉄を含む前駆物質よりも金属鉄に乏しい前駆物質がI型コンドリュールを作った可能性がある。しかしながら、炭素質コンドライト中のI型コンドリュールに多産する丸い金属粒子の起源として、微小な溶融した金属鉄粒子はコンドリュール溶融時に外部より注入されたか、コンドリュール形成時に気相が鉄に飽和していた可能性がある。
文献
Cohen B. A. and Hewins R. H. 2004. Geochim. Cosmochim. Acta 68, 1677-1689.