日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT31] 環境トレーサビリティー手法の新展開

2015年5月27日(水) 14:15 〜 16:00 304 (3F)

コンビーナ:*中野 孝教(大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所)、陀安 一郎(京都大学生態学研究センター)、座長:中野 孝教(大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所)

15:51 〜 15:54

[HTT31-P13] 縄文時代人骨の歯のエナメル質を用いた炭素同位体分析

ポスター講演3分口頭発表枠

*日下 宗一郎1Kevin T. UNO2中野 孝教3中務 真人4Thure E. CERLING5 (1.ふじのくに地球環境史ミュージアム、2.総合地球環境学研究所、3.ラモント=ドハティ・アース・オブザバトリー,コロンビア大学、4.京都大学大学院理学研究科、5.地質学・地球物理学研究科,ユタ大学)

キーワード:食性, コラーゲン, エナメル質, ヒト, 完新世

考古学の証拠によると,縄文時代人は陸上の植物資源を主要な食物としていたことが示唆されている。しかし,縄文時代人骨の骨コラーゲンの安定同位体分析によると,陸上資源だけでなく海産資源も多く摂取されていたことが示唆されている。この違いは,骨コラーゲンが食物タンパク質由来のアミノ酸から合成されること,また骨コラーゲン合成に炭水化物に由来する炭素がほとんど寄与していないことに原因がある可能性がある。本研究では,歯のエナメル質の炭素同位体比は炭水化物を含む食物エネルギー源に由来し,植物質食料の摂取の証拠を記録しているとの仮説を立てて分析した。山陽地方(大田貝塚、津雲貝塚)と東海地方(吉胡貝塚、稲荷山貝塚)の遺跡から出土した、縄文時代中期から晩期(約5000-2300年前)の人骨について,歯のエナメル質の炭素同位体比を測定した。その結果,陸上哺乳類と海産魚類は大きく異なる炭素同位体比を示し,縄文時代人の値はニホンジカの値に近く多くのエネルギーが陸上資源に由来していることが示唆された。歯のエナメル質炭素同位体比より計算した海産物依存度は,骨コラーゲンの炭素同位体比より計算した値に比べて,著しく低かった。またエナメル質と骨コラーゲンの炭素同位体比の差は,骨コラーゲンの窒素同位体比と負の相関を示した。この点は,陸上資源と海産資源の摂取割合に集団間・集団内の変動を示唆した。本研究は先史時代の人類の食性を復元する上で,骨コラーゲンだけでなく歯のエナメル質の炭素同位体比の分析が有効であることを示した。