15:00 〜 15:15
[SCG62-04] GNSSデータのスタッキング手法を用いた西南日本の短期的SSEの継続時間推定の試み
キーワード:スロースリップイベント, GNSS, 西南日本, 継続時間
はじめに
西南日本の沈み込み帯では,数日から10日間程度の継続時間でプレート境界がゆっくりとずれる短期的スロースリップイベント(SSE)が発生していることが知られている.Nishimura et al.(2013)及びNishimura(2014)は,国土地理院のGNSSデータ(GEONET)の解析から,東海地方から豊後水道にかけての南海トラフ沿いの深部(深さ20〜40km)だけでなく,日向灘から八重山諸島にかけての琉球海溝沿いにおいても短期的SSEが多数発生していることを示した.短期的SSEのシグナルはGNSSのノイズレベルぎりぎりであるため,Nishimura et al.(2013)では,短期的SSEの継続時間は0と仮定して,時系列データに1次トレンド付ステップ関数をフィッティングし,得られたステップの大きさを用いて断層モデルの推定を行っていた.そのため,この手法で検出された短期的SSEがどの程度の時定数を持っているのかは不明であった.
西南日本で観測されているSSEは,その継続時間が短期的SSEと長期的SSEの間でギャップがあり,その中間の1〜2ヶ月程度の継続時間を持つようなSSEは報告されていない.しかし,このような中間的な時定数のSSEは地殻変動連続観測とGNSSの得意とする時定数の間にあるため,今まで見つかっていないという可能性もある.
本研究は,この問いに答えるためGNSSデータを用いた短期的SSEの検出手法(Nishimura et al., 2013)と地殻変動データのスタッキング手法(宮岡・横田, 2012)を組み合わせて,短期的SSEの継続時間の推定を試みた.
データ及び解析手法
本研究で用いたデータは,国土地理院から公開されているGEONETの日座標値(F3解)である.まずは,Nishimura et al.(2013)及びNishimura(2014)の手法で短期的SSEの検出と矩形断層モデルの推定を行う.この矩形断層モデルの計算値を用いて,宮岡・横田(2012)の手法に準拠して時系列データのスタッキングを行った.スタッキング手法の具体的な手順は以下の通りである.まず,各GNSS観測点の南北・東西成分毎に短期的SSEの発生日を中心とする181日間の時間窓のデータをとりだして,中心の60日間を除いた時間窓の両端の期間を使って1次トレンドの除去とRMSの計算を行う.このRMSを各データのノイズレベルとし,時系列をノイズレベルで規格化する.次に,矩形断層モデルから計算されるシグナルと上記のノイズレベルから,各観測点各成分毎のS/N比を計算する.そして,S/N比の大きい順に時系列データのスタッキングを行い,時間窓の両端の期間を用いてスタッキングしたデータのノイズレベルを計算して,スタッキングデータのS/N比が最大となるまでスタッキングを行う.最後に,得られたスタッキング時系列に対してランプ型の関数をフィッテイングし,短期的SSEの継続時間を推定した.
結果
南海トラフ沿い深部での短期的SSEに関しては,概ね30から100のデータをスタッキングすることによりS/N比が最大となり,スタッキング時系列では,目視でもSSEの継続時間を認識することが可能となった.GNSSの各観測点各成分の時系列では短期的SSEの時定数を目視で確認することが難しいことから,スタッキング手法の有効性を確認することができた.比較的S/N比の良いスタッキングデータから推定された短期的SSEの継続時間は,数日から1ヶ月程度である.この継続時間は,傾斜計データから短期的SSEの継続時間を推定した先行研究(e.g., Sekine et al., 2010)よりも明らかに長いものも含まれる.このような長いイベントは,休止期間を挟んで連発したSSEを1つのイベントとして誤認したものも含まれるが,それだけでは説明できないイベントも存在する.講演では,継続時間の地域性や微動活動との比較,防災科学技術研究所のHi-net傾斜計データと比較した結果についても報告する予定である.
謝辞 本研究では国土地理院の日々の座標値(GEONET F3解)を使用しました.ここに記して感謝いたします.
参考文献
宮岡・横田(2012)地震2, 65, 205-218.
Nishimura, T., T. Matsuzawa, and K. Obara (2013) JGR Solid Earth, 118, 3112-3125.
Nishimura, T. (2014) PEPS, 1:22.
Sekine, S., H. Hirose, and K. Obara (2010) JGR Solid Earth, 115, B00A27.
西南日本の沈み込み帯では,数日から10日間程度の継続時間でプレート境界がゆっくりとずれる短期的スロースリップイベント(SSE)が発生していることが知られている.Nishimura et al.(2013)及びNishimura(2014)は,国土地理院のGNSSデータ(GEONET)の解析から,東海地方から豊後水道にかけての南海トラフ沿いの深部(深さ20〜40km)だけでなく,日向灘から八重山諸島にかけての琉球海溝沿いにおいても短期的SSEが多数発生していることを示した.短期的SSEのシグナルはGNSSのノイズレベルぎりぎりであるため,Nishimura et al.(2013)では,短期的SSEの継続時間は0と仮定して,時系列データに1次トレンド付ステップ関数をフィッティングし,得られたステップの大きさを用いて断層モデルの推定を行っていた.そのため,この手法で検出された短期的SSEがどの程度の時定数を持っているのかは不明であった.
西南日本で観測されているSSEは,その継続時間が短期的SSEと長期的SSEの間でギャップがあり,その中間の1〜2ヶ月程度の継続時間を持つようなSSEは報告されていない.しかし,このような中間的な時定数のSSEは地殻変動連続観測とGNSSの得意とする時定数の間にあるため,今まで見つかっていないという可能性もある.
本研究は,この問いに答えるためGNSSデータを用いた短期的SSEの検出手法(Nishimura et al., 2013)と地殻変動データのスタッキング手法(宮岡・横田, 2012)を組み合わせて,短期的SSEの継続時間の推定を試みた.
データ及び解析手法
本研究で用いたデータは,国土地理院から公開されているGEONETの日座標値(F3解)である.まずは,Nishimura et al.(2013)及びNishimura(2014)の手法で短期的SSEの検出と矩形断層モデルの推定を行う.この矩形断層モデルの計算値を用いて,宮岡・横田(2012)の手法に準拠して時系列データのスタッキングを行った.スタッキング手法の具体的な手順は以下の通りである.まず,各GNSS観測点の南北・東西成分毎に短期的SSEの発生日を中心とする181日間の時間窓のデータをとりだして,中心の60日間を除いた時間窓の両端の期間を使って1次トレンドの除去とRMSの計算を行う.このRMSを各データのノイズレベルとし,時系列をノイズレベルで規格化する.次に,矩形断層モデルから計算されるシグナルと上記のノイズレベルから,各観測点各成分毎のS/N比を計算する.そして,S/N比の大きい順に時系列データのスタッキングを行い,時間窓の両端の期間を用いてスタッキングしたデータのノイズレベルを計算して,スタッキングデータのS/N比が最大となるまでスタッキングを行う.最後に,得られたスタッキング時系列に対してランプ型の関数をフィッテイングし,短期的SSEの継続時間を推定した.
結果
南海トラフ沿い深部での短期的SSEに関しては,概ね30から100のデータをスタッキングすることによりS/N比が最大となり,スタッキング時系列では,目視でもSSEの継続時間を認識することが可能となった.GNSSの各観測点各成分の時系列では短期的SSEの時定数を目視で確認することが難しいことから,スタッキング手法の有効性を確認することができた.比較的S/N比の良いスタッキングデータから推定された短期的SSEの継続時間は,数日から1ヶ月程度である.この継続時間は,傾斜計データから短期的SSEの継続時間を推定した先行研究(e.g., Sekine et al., 2010)よりも明らかに長いものも含まれる.このような長いイベントは,休止期間を挟んで連発したSSEを1つのイベントとして誤認したものも含まれるが,それだけでは説明できないイベントも存在する.講演では,継続時間の地域性や微動活動との比較,防災科学技術研究所のHi-net傾斜計データと比較した結果についても報告する予定である.
謝辞 本研究では国土地理院の日々の座標値(GEONET F3解)を使用しました.ここに記して感謝いたします.
参考文献
宮岡・横田(2012)地震2, 65, 205-218.
Nishimura, T., T. Matsuzawa, and K. Obara (2013) JGR Solid Earth, 118, 3112-3125.
Nishimura, T. (2014) PEPS, 1:22.
Sekine, S., H. Hirose, and K. Obara (2010) JGR Solid Earth, 115, B00A27.