日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GL 地質学

[S-GL39] 地球年代学・同位体地球科学

2015年5月24日(日) 11:00 〜 12:45 A03 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*田上 高広(京都大学大学院理学研究科)、佐野 有司(東京大学大気海洋研究所海洋地球システム研究系)、座長:佐野 有司(東京大学大気海洋研究所海洋地球システム研究系)、田上 高広(京都大学大学院理学研究科)

12:00 〜 12:15

[SGL39-12] 硫黄, 炭素, 窒素の深部循環

*鹿児島 渉悟1佐野 有司1 (1.東京大学大気海洋研究所)

キーワード:硫黄フラックス, 炭素フラックス, 窒素フラックス, 中央海嶺玄武岩, 海底熱水, 火山ガス

硫黄は生物活動のみならず工業・医療面でも重要性の高い元素であるが、そのマントル―地球表層間における深部循環は十分に定量化されてこなかった。この物質循環を解明するためには希ガス元素であるヘリウムの同位体3Heが有用である。3Heは、そのマントルから大気, 海洋へのフラックスが良く制約されており、他の揮発性物質のフラックスを推定するためのトレーサーとなる。最近になって、MORB, 海底熱水, および火山ガスに含まれるヘリウム, 硫黄, 炭素の組成を基に、硫黄, 炭素の上部マントルから地球表層環境へのフラックスが推定された [1]。これらのフラックスの推定は、海嶺における3Heフラックスの最新の推定値である530 mol/y [2] を基準にして行われた。東太平洋海膨(13N, 17S), 大西洋中央海嶺(15N, 37N), 中央インド洋海嶺(24S-25S)の6か所で採取されたMORBの気泡、および東太平洋海膨(11N-47N, 17S-19S), 大西洋中央海嶺(23N-38N)における10か所の高温(>200℃)の海底熱水の組成から推定された中央海嶺におけるS/3He比は1.9×108であり、硫黄フラックスは100 Gmol/yと計算された。また環太平洋地域の15か所で採取された高温(>200℃)の火山ガスのS/3He比の平均値 (6.5×109)および、海嶺における3Heフラックスから推定された火山弧における3Heフラックス(110 Gmol/y)を基に、火山弧における硫黄フラックスは720 Gmol/yと計算され、海嶺からのフラックスよりも大きい値となった。しかしながら火山ガス中の硫黄の起源はマントルだけではない。火山ガスのS/3He比およびδ34S値は、上部マントル由来の硫黄, 沈み込んだ堆積物やスラブ由来の硫化物, 沈み込んだ海水や堆積物由来の硫酸塩の三つの端成分のミキシングによって説明可能である。火山弧からの硫黄フラックスに対する上部マントルの寄与は2.9%にあたる21 Gmol/yであり、上部マントルからのフラックスは火山弧よりも海嶺の方が大きいことが示された。炭素の海嶺からのフラックスはMORBおよび海底熱水のデータを基にした上部マントルにおけるCO2/3He比(2.2×109 [3])から1200 Gmol/yと計算された。環太平洋地域の24か所で採取された高温(>200℃)の火山ガスのCO2/3He比の平均値(2.0×1010)を基にした火山弧からのフラックスは2200 Gmol/yであった。火山ガスのCO2/3He比およびδ13C値は、上部マントル由来の成分, 沈み込んだ有機堆積物由来の成分, 沈み込んだ石灰岩とスラブ由来の炭酸塩とヘリウムの三つの端成分で説明可能であり [4]、火山弧からの炭素フラックスに対する上部マントルの寄与は11%にあたる240 Gmol/yであると計算された。上部マントルから大気, 海洋へのフラックスは炭素(1440 Gmol/y)の方が硫黄(121 Gmol/y)よりも12倍大きく、この比は二つの揮発性元素の表層存在度の比である13 [5] に近い。これは現在、地球表層に存在する硫黄と炭素の起源がともに上部マントルであることを示唆している。また、地球表層環境における硫黄と炭素のインベントリーの定常状態を仮定するとき、沈み込む硫黄, 炭素の全量はそれぞれ820 Gmol/y, 3400 Gmol/yとなり、それらの15%, 42%にあたる量が火山弧からリターンせず地球深部へと到達しなければならない。本研究では硫黄, 炭素のほかに窒素の物質循環についても定量化し、これらを比較して議論する。

参考文献: [1] Kagoshima et al. (2015) Sci. Rep. 5, 8330. [2] Bianchi et al. (2010) EPSL 297, 379-386. [3] Marty & Tolstikhin (1998) Chem. Geol. 145, 233-248. [4] Sano & Marty (1995) Chem. Geol. 119, 265-274. [5] Hilton et al. (2002) RiMG 47, 319-370.