日本地球惑星科学連合2015年大会

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ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC45] 活動的火山

2015年5月27日(水) 18:15 〜 19:30 コンベンションホール (2F)

コンビーナ:*青木 陽介(東京大学地震研究所)

18:15 〜 19:30

[SVC45-P30] F-net広帯域地震計を用いたmatched filter解析による阿蘇山長周期振動のモニタリング

*松澤 孝紀1松本 拓己1棚田 俊收1 (1.防災科学技術研究所)

キーワード:阿蘇山, 長周期振動, 波形相関, モニタリング

阿蘇山において10秒以上の長周期帯の振動が励起されていることは,1990年代半ばより報告されてきた(Kaneshima et al., 1996).2014年8月頃より活発化がみられるこの長周期振動に対し,F-net広帯域地震計記録によるmatched filter解析(例えばAsano et al., 2015)を適用し,現在,活動状況のモニタリングを試みている.
この解析では,テンプレートとする地震波形と,対象とする期間の記録の波形相関を計算し,相関係数の平均がある閾値を超えた場合に,イベントとして検出を行う.浅部超低周波地震の検出では,Asano et al. (2015)は震央位置も同時に解析しているが,本解析においては震源は変化しないものと仮定し,発震時刻のみの推定を行っている.現状の処理としては,2009年3月31日6時5分頃に発生したイベントを基準波形(テンプレート波形)としてF-net連続波形記録に,10-20秒の帯域でバンドパスフィルターをかけて波形相関をとり,その相関係数を観測点間で平均した値(以下,平均相関係数とよぶ)を計算している.この値の1分間での最大値が,0.3あるいは0.5を超えた場合をイベントとして検出した結果について以下紹介する.なお解析データは,周辺のF-net観測点9点の3成分を使用している.さらにこの解析においては,各時間ウィンドウにおける最大振幅について,テンプレートイベントとの比をとって,観測点間で対数平均したもの(以下,平均振幅比とよぶ)を,振幅の指標として出力している.さらに長期的な変化を議論するためには,一日毎の代表値が便利であるため,平均相関係数および平均振幅比の一日毎のメディアンをそれぞれ計算し,以下この値を用いて結果を紹介する.
この方法によって,2003年4月から2015年1月までの期間を解析したところ,2010年8月頃から2012年2月頃までの期間は,それ以前および以後に比べて活動が低調である傾向がみられた.その後,2014月8月頃からは検出数,平均振幅比とも増加傾向がみられた.2014年10月20日頃からは,この傾向がさらに顕著となり,平均振幅比が2以上となり,平均相関係数0.3を超えるイベント数が500以上となる日が多くみられるようになった.これらの値は,これ以前の解析期間には見られなかった活発な活動であることを示す.その後2014年11月終わり頃から,平均振幅比および平均相関係数0.5を超えるイベント数は低下したが,平均相関係数0.3を超えるイベントの数は依然多い状態が継続している.これは,長周期振動の発生数は依然として多い状態であるが,それぞれの長周期振動の振幅が低下していることを示唆する.
本手法は簡便にイベント検出が可能であるものの,いくつか問題点が残されている.例えば,遠地地震の発生時等では波形相関の値が小さくなってしまう.また,イベントを抜き出す1分の時間幅よりも短い間隔でいくつもイベントが発生するような,活動が極めて活発な状況が生じた場合には,検出能力が飽和する可能性も予想される.ここでは平均相関係数が0.3と0.5を超える場合をイベントとして紹介したが,検出基準についてもなお検討の必要がある.しかしながら,ここで紹介した長周期振動の情報は火山活動の変化を短時間に把握する指標の一つとして有用と考えられるため,解析手法の改善を行いつつも,定常的にモニタリングを続けることが重要である.また,火山近傍だけでなく,F-netのようなある程度離れた場所のデータを用いたモニタリング手法を準備しておくことは,近傍の点で何らかの障害が起きた際の代替手段としても有用であろう.