日本地球惑星科学連合2015年大会

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口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS31] 結晶の成長と溶解における界面・ナノ現象

2015年5月27日(水) 09:00 〜 10:45 102A (1F)

コンビーナ:*木村 勇気(北海道大学低温科学研究所)、三浦 均(名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科)、塚本 勝男(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、佐藤 久夫(三菱マテリアル株式会社エネルギー事業センター那珂エネルギー開発研究所)、座長:田中 今日子(北海道大学低温科学研究所)

10:30 〜 10:45

[MIS31-06] ステップ・ダイナミクスの数値計算:フェーズフィールド法に基づいた定量的定式化

*三浦 均1 (1.名市大・院シ)

キーワード:結晶成長, ステップ・ダイナミクス, 数値計算, フェーズフィールド法

ステップ・ダイナミクスは,結晶成長における本質的な物理現象である。結晶表面には原子スケールの高さを持つ段差(ステップ)が存在し,そこに原子や分子が取り込まれることによってステップが前進し,結晶が一層ずつ積み上げられていく。従って,結晶成長メカニズムを解明するには,ステップの供給メカニズムや,ステップ前進速度を決める物理を理解する必要がある。

代表的なステップ供給メカニズムとして,1949年にらせん成長機構が提案された[1]。結晶内に含まれるらせん転位が平坦な結晶表面に露出していると,そこを中心としてステップが渦巻き状に前進する。らせん転位は常にその表面に露出し続けるため,永続的なステップ供給源として作用し,転位露出位置を頂上とした成長丘を形成する。らせん成長機構による面成長速度は過飽和度の関数として解析的に表されており,成長に寄与するらせん転位の数や間隔,Burgersベクトルの総和に依存する[2,3]。成長丘の傾きの過飽和度依存性かららせん転位源の特徴を決定することも可能である[4,5]。しかし,この解析式では,個々のステップの挙動を記述することはできない。実際の結晶成長においては,逆向きのらせん転位ペアの間に閉じたループ状ステップが形成されたり,二次元核形成によってステップ間に新たなステップが供給されたりすることがある[6]。個々のステップの挙動が結晶成長に及ぼす影響を明らかにするには,多数のステップのダイナミクスを同時に扱う手法が重要である。

本研究では,フェーズフィールド法(PF法)に基づき,多数のステップのダイナミクスを定量的に扱うことが可能な数値計算手法を提案した。PF法は,多数のステップの相互作用を同一のスキームで扱うことが可能な数値計算手法である[7]。PF法では,結晶面の高さをフェーズと呼ばれる秩序変数で表現する。フェーズはステップ間(テラス)において一定の値を取り,ステップにおいて異なる高さのテラスの間を有限の幅の間で連続的に繋ぐ。本研究では,過飽和度を陽に取り入れた自由エネルギー汎関数を新たに定義し,自由エネルギー減少の原理からフェーズ場の時間発展方程式(PF方程式)を導出した。さらに,過飽和度が小さい極限において,直線状ステップの前進速度がdirect integration仮説[3]によって決まる値(厳密解)に一致するように定式化した。本手法を代表的なステップ・ダイナミクスの問題に対して適用し,面成長速度の計算結果を解析式[2,3]と比較した。

まず,直線状ステップの前進速度の数値計算を行ない,厳密解との誤差が1%以内になる計算条件を明らかにした。次に,過飽和溶液中における二次元島の成長・溶解過程の数値計算を行ない,半径の時間変化がGibbs-Thomson効果から予想される式と一致することを確認した。これは,本手法が曲がったステップの前進速度をも正しく記述できることを示している。さらに,シート構造関数[7]を用いてらせん転位を導入し,らせん成長機構による面成長速度を調べた。その結果,らせん転位がひとつの場合,らせん転位がペアで存在する場合,同じBurgersベクトルを持つ複数のらせん転位が等間隔で一列に並んでいる場合のそれぞれについて,解析式[2,3]を定量的に再現できることを示した。

本研究では,複雑ならせん転位源に対してステップ・ダイナミクスを数値的に解く手法を提案した。本手法では,PF方程式(放物型偏微分方程式)を一般的な数値計算法で解くことで,ステップ前進速度を曲率効果も含めて定量的に再現することができる。本手法は,ステップ・ダイナミクスの新たな解析手法を提供するだろう。

参考文献:[1] F. C. Frank, 1949, Disc. Faraday Soc. 5, 48. [2] Burton et al., 1951, Phil. Trans. Roy. Soc. A 243, 866. [3] A. A. Chernov, 1984, Modern Crystallography, Vol. III (Springer-Verlag: Berlin). [4] A. A. Chernov et al., 1986, J. Crys. Growth 74, 101. [5] P. G. Vekilov et al., 1992, J. Crys. Growth 121, 44. [6] K. Maiwa et al. 1998, J. Crys. Growth 186, 214. [7] R. Kobayashi, 2010, in Selected Topics on Crystal Growth (American Institute of Physics), pp. 282.