日本地球惑星科学連合2015年大会

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口頭発表

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[U-05] Future Earth - 持続可能な地球へ向けた統合的研究

2015年5月25日(月) 14:15 〜 16:00 103 (1F)

コンビーナ:*氷見山 幸夫(北海道教育大学教育学部)、中島 映至(東京大学大気海洋研究所)、谷口 真人(総合地球環境学研究所)、大谷 栄治(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、座長:山形 与志樹(独立行政法人国立環境研究所)

14:15 〜 14:40

[U05-10] アジア環太平洋地域における水・エネルギー・食料ネクサスの最適ガバナンス

*谷口 真人1地球研プロジェクト R08-Initメンバー1 (1.総合地球環境学研究所)

キーワード:水, エネルギー, 食料, ネクサス, ガバナンス, アジア環太平洋

水、エネルギー、食料は、人の生存と社会にとって最も基本的で重要な資源であり、これらの資源に対する需要は、人口増加や経済発展、生活様式等の社会的変化により、2030年までに単独でそれぞれ 40%, 50%, 30%増加すると予測されている (US NIC, 2013)。また気候変動の影響は、水、エネルギー、食料の供給量変化の要因として働き、資源間のトレードオフやステークホルダー間の競合をもたらすため、異なるステークホルダー間とマルチスケール(階層間)での合意形成と、社会の意思決定のしくみづくりが不可欠である。わが国を含むアジア環太平洋縁辺域では、アジアモンスーンの気象・水文条件と、火山地熱地域の地質・地形要因を考慮したうえで、自然がもつリスクを軽減し、それらがもたらすサービスを増大させる社会の構築が重要であり、本研究では、水・エネルギー・食料ネクサス(連環)のトレードオフとコンフリクトを対象に、Co-designing / Co-producing(科学と社会との共創)をとうした合意形成のしくみを明らかにし、環境ガバナンスを統合的に最適化するための枠組みを示すことを目的として研究を行った。
アジア環太平洋地域32カ国間におけるリージョナルレベルでの水・エネルギー・食料ネクサス解析では、特にアメリカで多量のエネルギーが水の輸送に使用されていること、また、日本・フィリピン・インドネシアでは水産活動に使われる水・エネルギーの割合が他国に比べて多いことが明らかになった。また資源の自給率等から見た自律性や、資源利用の多様性等が、持続可能な社会の指標の例としてアジア環太平洋地域で明らかになった。また異なるステークホルダー間での合意形成と、社会の意思決定のしくみづくりを構築することを目的に、ローカルレベルでは様々な手法を用いた参加型研究を行い、ナショナル(国)レベルでは、日本の水資源に関する2014年制定の水循環基本法のもとで、基本的施策に関する新たな制度化に関する研究等を、またアジア環太平洋地域においてはCo-producingに向けたステークホルダーのカテゴリー別の特定を行った。
水とエネルギーのネクサス解明では、エネルギーと水のコンフリクトを軽減しつつエネルギーの利用可能性を明らかにするため、地熱・地中熱ポテンシャル、温泉排水熱のエネルギーポテンシャルと小水力発電のポテンシャルの評価を行った。また水―食料(水産)ネクサス解明では、沿岸域における陸から海への水供給の多様性(河川水と地下水)および安定性と水産資源との関係を明らかにするために、異なる空間スケール(湾ごとの比較、湾内の比較)において、魚の種数,個体数,重量を調査した結果、地下水流出の多い(水供給の多様性が高い)湾において、沿岸域の生物の種数,個体数,重量が多いこと、小浜湾奥部沿岸域の地下水湧出域周辺において藻類、貝類、甲殻類、魚類の分布量が多いことが明らかになった。
ネクサス間の潜在コンフリクトの存在下における合意形成研究では、小浜市において地下水問題に焦点をあてたステークホルダー分析や社会ネットワーク分析を実施したほか、地熱開発問題に焦点をあてたインターネットによる全国討論実験を行った結果からは、地熱発電建設に中立的な立場の人が、科学的専門知の提供後に、より多く建設賛成に態度変容したことなどが明らかになった。これ等の結果を、生物地球化学統合モデル、統合指標、統合マップ、費用便益解析などにより、水・エネルギー・食料ネクサスのシナリオ分析の下で今後解析を行う予定である。