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[MAG38-P04] 噴霧乾燥法による放射性エアロゾル発生システムの開発
キーワード:放射性エアロゾル, セシウム, 葉面吸収, 噴霧乾燥法
福島第一原子力発電所の事故により大気中に大量の放射性物質が環境中に放出された。気体の化合物以外の放射性物質は主にエアロゾルの組成で大気中を輸送され環境中に沈着した。その中で植生(森林や農作物)への沈着に着目した場合、放射性物質はエアロゾルが直接植生に衝突して沈着する乾性沈着と、雲のなかで雨滴に取り込まれ、溶液として沈着する湿性沈着の二つの沈着挙動を取る。このたびの事故において、特に放射能濃度が高い原発近辺の森では乾性沈着プロセスがメインであると考えられる。植生への放射性物質の乾性沈着において、葉から元素が吸収される葉面吸収と呼ばれる現象が起きたと考えらえる。葉面吸収プロセスは一般的によく調べられている経根吸収よりも、吸収速度が速いと言われており、事故初期の放射性物質の植生への沈着量を評価する際には大きな影響を及ぼす。放射性物質の農作物への初期沈着量はその後の人体への内部吸収を評価するうえで、森林に関しては長期間にわたる森林内での放射性物質の循環をモデリングするうえで重要である。
これまで、放射性物質(特にCs)の葉面吸収に関しては、安定同位体Csを含んだ溶液を葉の表面に液滴として添加する方法で調べられている。植物の成長段階、溶液を添加後に洗い流すまでの時間、溶液の化学組成などの変化させることで、葉面吸収について多くのことが分かってきている。化学組成に着目した場合、例えばDongらの研究ではCs2CO3の化学組成で葉面に添加した場合、CsNO3やCs2SO4の2~5倍ほど吸収されることがわかっている[1]。しかしいずれの実験も、微小固体塩であるエアロゾルが直接衝突して沈着する乾性沈着挙動を再現するものではなく、また放射性元素のような微量の物質の挙動への適用において疑問が残る。それらに対して、放射性物質を加熱して発生させた酸化物エアロゾルを葉面に吸着させ、沈着挙動を調べたMadoz-Escandeらの実験がある[2]。しかし、今回の事故においてCsは大気中を硫酸エアロゾルの組成で輸送されたことが示唆されており[3]、Csの化学組成によって葉面吸着挙動が変化する可能性があることから、Madoz-Escandeらの実験データを用いて今回の事故における乾性吸着挙動を直接に評価することは難しい。初期沈着量を正確に計算するためにも、事故時の状況を再現した実験系で、エアロゾルに含まれる放射性物質の沈着速度や吸収速度を得る必要がある。
本研究は、福島第一原子力発電所の事故により放出され、硫酸エアロゾルとして大気中を輸送されたCsの、植生への乾性吸着挙動を観察することを目的としている。そのために、放射性Csが含まれた硫酸エアロゾルを人工的に発生させ、コントロールされた環境下で植物の葉面に直接沈着させる実験系の構築が必要となる。放射性Csを用いることで、植物体に取り込まれてからも非破壊で定量することができ、植物体中へのCsの移行を巨視的に観測できる。本研究では放射性Csエアロゾルの発生システムの開発の基礎研究を行った。具体的な放射性エアロゾルの発生方法は噴霧乾燥法と呼ばれる方法をとり、放射性物質を添加した溶液をシリンジポンプにより送液し、流量をコントロールした乾燥空気に乗せて、ノズルを経由することで微細な噴霧として放出する。加熱されたチャンバー内に噴霧を噴出することで、噴霧発生後すぐに水分が蒸発し、溶液内の塩成分の化学組成をとる微小固体塩エアロゾルが得られる。発表では、作成したチャンバーの条件、生成される噴霧の形状、得られるエアロゾルの収率や粒径について報告し議論する。
[1] D. Yan, et al., Journal of Environmental Radioactivity, 126 pp232-238, (2013)
[2]C.Madoz-Escande, et al., Journal of Environmental Radioactivity, 73 pp49-71, (2004)
[3] N. Kaneyasu, et al.,Environmental Science & Technology, 2012, 46 (11), pp 5720?5726
これまで、放射性物質(特にCs)の葉面吸収に関しては、安定同位体Csを含んだ溶液を葉の表面に液滴として添加する方法で調べられている。植物の成長段階、溶液を添加後に洗い流すまでの時間、溶液の化学組成などの変化させることで、葉面吸収について多くのことが分かってきている。化学組成に着目した場合、例えばDongらの研究ではCs2CO3の化学組成で葉面に添加した場合、CsNO3やCs2SO4の2~5倍ほど吸収されることがわかっている[1]。しかしいずれの実験も、微小固体塩であるエアロゾルが直接衝突して沈着する乾性沈着挙動を再現するものではなく、また放射性元素のような微量の物質の挙動への適用において疑問が残る。それらに対して、放射性物質を加熱して発生させた酸化物エアロゾルを葉面に吸着させ、沈着挙動を調べたMadoz-Escandeらの実験がある[2]。しかし、今回の事故においてCsは大気中を硫酸エアロゾルの組成で輸送されたことが示唆されており[3]、Csの化学組成によって葉面吸着挙動が変化する可能性があることから、Madoz-Escandeらの実験データを用いて今回の事故における乾性吸着挙動を直接に評価することは難しい。初期沈着量を正確に計算するためにも、事故時の状況を再現した実験系で、エアロゾルに含まれる放射性物質の沈着速度や吸収速度を得る必要がある。
本研究は、福島第一原子力発電所の事故により放出され、硫酸エアロゾルとして大気中を輸送されたCsの、植生への乾性吸着挙動を観察することを目的としている。そのために、放射性Csが含まれた硫酸エアロゾルを人工的に発生させ、コントロールされた環境下で植物の葉面に直接沈着させる実験系の構築が必要となる。放射性Csを用いることで、植物体に取り込まれてからも非破壊で定量することができ、植物体中へのCsの移行を巨視的に観測できる。本研究では放射性Csエアロゾルの発生システムの開発の基礎研究を行った。具体的な放射性エアロゾルの発生方法は噴霧乾燥法と呼ばれる方法をとり、放射性物質を添加した溶液をシリンジポンプにより送液し、流量をコントロールした乾燥空気に乗せて、ノズルを経由することで微細な噴霧として放出する。加熱されたチャンバー内に噴霧を噴出することで、噴霧発生後すぐに水分が蒸発し、溶液内の塩成分の化学組成をとる微小固体塩エアロゾルが得られる。発表では、作成したチャンバーの条件、生成される噴霧の形状、得られるエアロゾルの収率や粒径について報告し議論する。
[1] D. Yan, et al., Journal of Environmental Radioactivity, 126 pp232-238, (2013)
[2]C.Madoz-Escande, et al., Journal of Environmental Radioactivity, 73 pp49-71, (2004)
[3] N. Kaneyasu, et al.,Environmental Science & Technology, 2012, 46 (11), pp 5720?5726