日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC45] 活動的火山

2015年5月28日(木) 16:15 〜 18:00 304 (3F)

コンビーナ:*青木 陽介(東京大学地震研究所)、座長:森 俊哉(東京大学大学院理学系研究科地殻化学実験施設)、寺田 暁彦(東京工業大学火山流体研究センター)

17:15 〜 17:30

[SVC45-27] 草津白根山の火山ガス組成変化から示唆される深部マグマ脱ガス

*大場 武1柴倉 大輔1 (1.東海大学理学部化学科)

キーワード:草津白根山, 熱水系, 火山ガス, 水蒸気爆発, マグマ, CO2/H2O


草津白根山では2014年3月から火山性地震の回数が増加し,山頂域で山体膨張と解釈される地殻変動が観測されている(気象庁HP).草津白根山では1976年3月に山頂の水釜火口で水蒸気爆発が発生している.Ossaka et al(1980)はこの噴火の8ヶ月前に山頂地熱地帯の噴気にSO2/H2S比の上昇を検出した.1982,1983年には山頂の湯釜火口で水蒸気爆発が発生し,同時に火口湖水組成に大きな変動が見られた(Ohba et al 2008).水蒸気爆発噴火は熱水リザーバの破壊であり,熱水リザーバから放出される揮発性成分の一部は,火山ガスや火口湖水の成分を構成する.水蒸気爆発噴火を理解・予知する上で火山ガスや火口湖水は本質的に重要な研究対象と言える.本研究では,2014年3月の活発化後に草津白根山で噴気を採取し,過去のデータと比較することにより,地下深部で進行中の現象を推定する.


火山ガスの採取・分析
山頂湯釜火口北方500mにある北側地熱地帯の二地点(K1,K2),湯釜北西2.4kmにある万座空吹地熱地帯の一地点(M1),湯釜南東方3.0kmにある殺生河原地熱地帯の一地点(S1)で2014年7月に噴気を採取した.殺生河原地熱地帯の一地点では時間変化を調べるために2014年11月に再度採取した.噴気の採取と分析は小沢(1968)に従った.噴気水蒸気の安定同位体比を測定するために現場で凝縮水を採取し持ち帰り,赤外レーザー光を用いたキャビティリングダウン方式により測定した.

結果
K1は山頂北側噴気地帯で最も噴出圧力が高い噴気であり轟音を発していた.この特徴は過去も同様であり今回も外見に大きな変化はなかった.K1,K2,M1,S1噴気の温度はそれぞれ92.4,94.1,96.2,94.5℃と水の沸点に近い.1999年でK1の温度は104℃であり,それと比較すると今回は若干低下している.K1,K2,M1,S1噴気のSO2/H2Sモル比はそれぞれ,0.013,0.013,0.019,0.011と低い.Ossaka et al.(1980)は水釜噴火の8か月前に山頂北側地熱地帯の噴気で0.29に達する高い比を見出している.K1,K2のCO2/H2Oモル比は1999年におけるK1の値,0.0052に対し8倍の0.044に達する高い値を示した.K1のCO2/H2Oモル比は水釜噴火の8か月前にも0.059という高い値を示している(Ossaka et al. 1980).S1のCO2/H2Oモル比は2000年の値である0.027よりも若干高い0.036を示し,2014年11月には0.046に上昇した.K1,K2のH2/H2Oモル比は,2.7E-7,2.6E-7であり1999年のK1の値,2.6E-7とほぼ一致した.K1,K2,M1,S1噴気に含まれるH2Oの安定同位体比は2000年頃の値から大きく変化しなかった.

考察
K1,K2の噴気に観察された高いCO2/H2Oモル比には二つの可能性が考えられる.先ず,最初の可能性として火山ガスが地下を上昇する間にH2Oが凝縮などで失われ相対的にCO2が上昇したことが考えられる.しかし,K1の噴出圧は今回の観測でも高く,水蒸気の凝縮は弱い噴気で起きるので,凝縮でCO2/H2Oモル比の上昇を説明するのは適当とは言えない.別の可能性として,噴気の源でCO2が増加したのかも知れない.噴気はマグマ性ガスと地下水の混合物と考えられるので,CO2の増加はマグマ性ガスに含まれるCO2が増加したことを意味する.マグマ性ガスのCO2が増加する原因としては,揮発性成分に富むマグマの貫入が原因として考えられる.草津白根山の山頂には火口湖が形成されており,湖水は強酸性を示す.湖水の強酸性の原因はHClを含む流体の流入が原因であり,HClは固化しつつあるマグマから放出されていると推定されている(Ohba et al, 2008).固化しつつあるマグマにはほとんどCO2が含まれていないので,この固化しつつあるマグマ自体からCO2が供給されたとは考えられない.よってCO2を放出したマグマは湯釜直下の固化しつつあるマグマとは別に存在すると考えられる.北側噴気地帯のガスにはリザーバ温度の上昇を示唆するSO2/H2S比の上昇や,H2/H2O比の上昇は全く見られない.草津白根山で現在進行中の現象は,十分に深い場所における揮発性成分に富むマグマの脱ガスであり,熱水リザーバの破壊である水蒸気爆発噴火の可能性は高くないと思われる.