日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS21] 惑星科学

2015年5月24日(日) 09:00 〜 10:45 A02 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*黒澤 耕介(千葉工業大学 惑星探査研究センター)、濱野 景子(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、座長:濱野 景子(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、黒澤 耕介(千葉工業大学 惑星探査研究センター)

10:15 〜 10:30

[PPS21-06] 金属鉄-ケイ酸塩間の塩素分配: 地球表層の塩素枯渇の起源への示唆

*桑原 秀治1後藤 弘匡2小川 展弘3山口 飛鳥3石橋 高4八木 健彦5杉田 精司5 (1.東京大学大学院新領域創成科学研究科、2.東京大学物性研究所、3.東京大学大気海洋研究所、4.千葉工業大学惑星探査研究センター、5.東京大学大学院理学系研究科)

キーワード:塩素, 元素分配, 原始海洋, 核組成

地球表層の塩素存在量は始原天体と比較して同程度に揮発性をもつ元素よりもさらに枯渇している(Sharp & Draper, 2013)。この塩素欠乏に対する提案仮説は二つある。一つは核-マントル分化時において塩素が核に優先的に取り込まれたとする仮説である。もう一つの仮説は核への塩素の取り込みが限定的であった場合、親水性の高い塩素は海洋により多く分配されるため、惑星形成期に原始海洋の損失が起こったと考えるものである(Sharp & Draper, 2013)。特に惑星形成期の水圏の散逸問題は地球型惑星の大気・海洋の起源にも直結する問題であるため、上記の提案仮説を検証することは非常に重要な意味がある。本研究では地球表層の塩素の枯渇がどのような惑星形成過程を反映しているかを制約するため、マグマオーシャン中の金属鉄-ケイ酸塩間の塩素の分配係数を実験的に求めることを目的とする。
元素の分配挙動は主にマグマオーシャンの温度、圧力、酸素フガシティーに影響を受ける。本研究ではまず、塩素分配係数の酸素フガシティー依存性を調べた。出発試料として粉末状のSiO2, Al2O3, CaO, MgO, FeをCIコンドライト組成になるよう調製し、そこへFeCl2を2wt.%含めたものを用いた。酸素フガシティーは試料に金属Siを加えることで調整した。実験は東大物性研のマルチアンビル型高圧発生装置(KAMATA700tonプレス)を用いて行った。試料はグラファイトカプセルに詰め、4GPa, 1900Kの条件で15分間保持した後、加熱電源を落として急冷、減圧し、回収した。回収試料は東大大気海洋研に設置されている波長分散型電子線マイクロプローブアナライザにより元素組成を分析した。
実験回収試料中の金属鉄-ケイ酸塩間の塩素の質量濃度比は酸素フガシティー(logfO2(∆IW) = –1〜–6)に依らず、0.001〜0.01となり、塩素は親鉄性に非常に乏しいことが明らかとなった。マグマオーシャン中の金属鉄-ケイ酸塩間の塩素分配係数がより高圧条件下においても1を超えないのであれば、核への塩素の取り込みは限定的となり、塩素枯渇の起源として原始海洋損失の可能性が示唆される。

参考文献: Sahrp, Z.D. and D.S. Draper, 2013, Earth Planet. Sci. Lett. 369-370, 71-77.