日本地球惑星科学連合2015年大会

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口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS30] 地震発生の物理・震源過程

2015年5月25日(月) 09:00 〜 10:45 A05 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*安藤 亮輔(東京大学大学院理学系研究科)、加瀬 祐子(産業技術総合研究所 活断層・地震研究センター)、座長:平野 史朗(筑波大学システム情報工学研究科)、平原 和朗(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻地球物理学教室)

10:30 〜 10:45

[SSS30-07] 数論的アプローチによる地震活動のモデル化

*藤原 広行1 (1.防災科研)

キーワード:数論, 素数, 地震, 跡公式, アデール

発生間隔がランダムで規模別発生頻度がG-R則に従うような地震活動を数理モデルとして表現するため,藤原(2014)は「数論的地震活動モデル」を提案し,素数を用いた地震活動モデルを定式化した.「数論的地震活動モデル」は,地震活動と素数分布との現象論的な類似性から類推されたものであるが,単なる偶然ではなく,その背後に何らかの数理物理的な意味付けが存在する可能性があると考え,跡公式と呼ばれる関係式に着目し検討を実施している.本研究では,さらにこれらの考察を深め,アデール空間上での非可換幾何学を利用して,「数論的地震活動モデル」に物理的解釈を与えることを目指す.
「地震」と「数」の世界に対して,下記のような対応を考えてみる.p_をi番目の素数とし,その素数に対応する指標として素数の出現間隔 p_-pi-1をとる.i番目に発生する地震をe_とし,その発生時刻をT(e_),地震モーメントをMo(e_)としたとき,下記の関係式が成り立つと仮定する.
T(e_)=p_
log(Mo(e_))=p_-pi-1
この対応関係に対して,数値実験を行うことにより,G-R則に類似した性質が得られる.この対応によって得られるモデルを「数論的地震活動モデル」と呼ぶ.「数論的地震活動モデル」における「地震」は,素数分布論の研究対象である「素数」そのものであり,地震発生予測は素数の出現予測と同値なものとなる.
跡公式は,ある種の作用素のトレース(跡)を2通りの方法で計算することにより得られる等式である.跡公式に共通する特徴は,幾何サイドにおける素元に関する和が,スペクトルサイドにおける固有値に関する和に等しいということである.跡公式のこうした特徴を一般化することにより,Riemannにより導かれた素数に関する明示公式も跡公式の1つとしてとらえることが可能である.Riemann明示公式を形式的に微分し,Riemann予想を仮定することにより得られる式においては,左辺に現れる各デルタ関数が地震発生時に対応しており,右辺においては,それらがRiemannゼータ関数の零点により周波数が規定されるある種の波動の無限個の重ね合わせで表現されている.不規則に出現する点過程は,数学的なモデリングにおいて扱いが難しいが,跡公式を用いることにより数学的な取り扱いが比較的簡単な連続関数の和として表現することが可能となる.このように,跡公式を用いることにより,一見とらえどころのない不規則な点過程を,ある種の力学系の固有値問題としてモデル化できることが期待される.
地震を場のエネルギーレベルの変化に対応する現象としてとらえ,地震発生場をある種の量子化された力学系を用いて表現することを考える.地震が発生する場のハミルトニアンを考え,地震発生をハミルトニアンに対する固有値問題として設定し,その固有値問題がゼータ関数と関連することがもし示されれば,地震活動と素数分布との類似性についての説明ができるのではないかと期待できる.素数の分布に関する研究においては,Hilbert-Polya予想の解決に向けて,ある種の量子化された力学系の固有値問題として素数分布と同値な関係にあるRiemannのゼータ関数の零点分布をとらえようとする研究が進んでいる.例えば,Connesは,アデール類の空間上で定義される2乗可積分な関数空間へのイデール類群の作用を考察することによりSelberg型の跡公式を導き,その跡公式が成立することとRiemann予想が成立することが同値であることを示した.また,Volovichは,p進量子力学を提唱し,アデール空間上への量子力学の拡張について考察している.それら研究の一環として,アデール空間上での調和振動子が導かれ,そのMellin変換がRiemannゼータ関数を用いて表現できることが示されている.このように,アデール空間上で力学系を構成しその固有値問題を定式化すると,それらは自然にRiemannゼータ関数と関連づけられることがわかる.
本研究では,アデール空間上への量子力学の拡張の考え方を参考にして,地震学の物理的な基礎を与える連続体力学に対して,その量子化(非可換化)に向けた基礎検討を試みる.これら基礎的な検討をもとに,アデール空間上での力学系の固有値問題として地震をとらえるための考察を実施する.

参考文献
藤原広行(2014):数論的地震活動モデル,地震,vol.66, 67-71.