日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG64] 海洋底地球科学

2015年5月28日(木) 11:00 〜 12:45 A05 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*沖野 郷子(東京大学大気海洋研究所)、田所 敬一(名古屋大学地震火山研究センター)、石塚 治(産業技術総合研究所活断層火山研究部門)、土岐 知弘(琉球大学理学部)、高橋 成実(海洋研究開発機構地震津波海域観測研究開発センター)、座長:町田 嗣樹(独立行政法人 海洋研究開発機構)、川田 佳史(海洋研究開発機構)

12:00 〜 12:15

[SCG64-27] 部分的に厚くなる透水層内の水循環:日本海溝アウターライズのkmスケールの熱流量異常を説明するモデル

*川田 佳史1山野 誠2 (1.海洋研究開発機構、2.東大地震研究所)

キーワード:熱流量, 熱水循環, 日本海溝, 沈み込み帯

東北日本海側の広い範囲で熱流量異常が観測されている (Yamano et al., 2008, 2014)。海溝の150 km海側から海溝軸の範囲での熱流量の平均は約70 mW/m2で、プレート年代135 Maから期待される50 mW/m2 に比べて高い。また個々の熱流量値は50-120 mW/m2の間でばらついている。北緯39°で行った数100 m間隔での密な測定によると、熱流量異常の空間スケールは3-5 km程度である (山野ほか, 2015年連合大会)。このような細かいスケールの熱流量異常の原因は海底直下にあると考えられるが、一方で、反射法地震探査では当該箇所の堆積物に明瞭な構造はみられない。

熱流量異常が観測されている範囲では、プレート最上部で高いVp/Vsをもつ層が海溝に向かって厚くなっている様子が観測されている (Fujie et al., 2013a, 2013b)。プレート最上部はもともと空隙率が高く透水層として働くことが知られており、この観測は透水層が厚くなっていると解釈することができる。

我々は、観測された熱流量異常のうち、まず平均的に高い熱流量を説明するためのモデル化を行った (Kawada et al., 2014)。高Vp/Vs層の観測を参考に、海溝の150 km海側で厚さ500 mであった透水層が海溝軸に向かって厚さ3000 mまで厚くなると仮定した。流体計算の結果、観測に匹敵する熱流量異常が生じることが分かった。このモデルでは、熱流量異常の原因は厚くなる透水層の下側部分の熱が透水層内の熱水循環により上向きに汲み上げられることである。

本発表では細かいスケールの熱流量異常を説明すべく、透水層が部分的に厚くなることが熱流量にどのように影響するかを数値計算で調べた。Kawada et al. (2014) ではプレートの移動と共に透水層が滑らかに厚くなるとしていたが、透水層が厚くなる過程は割れ目の進展であり、段階的に起こると考えねばならない。今回2種類のモデルを用いた:
・まず、高浸透率の透水層が水平方向1-2 kmに渡って厚くなる場合について、熱水循環を考慮した計算を行った。透水層の最終的な厚さは先行研究と同じく3000 mとしたが、今回は瞬間的に厚くなると仮定した。計算は沈み込み方向に直交した2次元断面で行った。
・次に、幅100 m程度の幅を持つ断層 (高浸透率の領域) が生じた場合の計算を行った。断層の深さは3000 mで、沈み込み帯に直交する方向に置いた。断層を取り囲む領域での3次元の計算を行った。計算時間低減のため、熱水循環を高熱伝導率でパラメータ化した。

どちらの計算でも、計算の開始直後から断層あるいは厚くなった透水層の直上で高熱流量異常が生じる。観測と匹敵する100 mW/m2程度の熱流量異常は、数十万年という長期に渡って継続する。この熱は、断層あるいは厚くなった透水層の周囲の、対流にあずからない領域から流入することが分かった。つまり、熱は主に水平方向に熱伝導で運ばれ、そののち断層内の熱対流によって鉛直方向に運ばれる。この領域は断層あるいは厚くなった透水層に比べて大きいため、熱流量異常を長く保つことができるのである。