日本地球惑星科学連合2015年大会

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セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS22] ミクロスケール気象現象解明にむけた稠密観測・予報の新展開

2015年5月26日(火) 18:15 〜 19:30 コンベンションホール (2F)

コンビーナ:*古本 淳一(京都大学生存圏研究所)、常松 展充(東京都環境科学研究所)、荒木 健太郎(気象庁気象研究所予報研究部)

18:15 〜 19:30

[AAS22-P02] 転倒ます型雨量計の比較観測

*永瀬 司1林 泰一2小松 亮介3渡邉 好弘1橋波 伸治1山本 哲4 (1.気象情報通信株式会社、2.京都大学防災研究所、3.株式会社小松製作所、4.気象庁気象研究所)

キーワード:転倒ます雨量計, 局地性豪雨, 気象観測, インド

近年、局地的な豪雨による災害が多く発生している。例えば、2014年8月に広島市で発生した豪雨では、線状降水帯が数時間停滞し、3時間に200mmを超える大雨となった。この豪雨により山崩れや土石流が発生し災害をもたらした。このような豪雨において、実際の降水量を正確に観測することは、現象の解明および将来の防災対策においても有用であり、その必要性は高くなっている。
日本国内の雨量観測は、雨量0.5mm相当で1回転倒する転倒ます型雨量計が広く採用されている。一方、雨量の少ない地域、特に海外では、雨量0.2mm相当で1回転倒する雨量計を採用する国も多い。このタイプの雨量計が、南アジアや東南アジアなどの激しい降水現象が発生する所でも使用されている場合がある。今回、降水強度と転倒ます型雨量計の精度の関係を調査し、激しい降水現象が発生する場所で、正確な雨量観測が保証されるかどうかを検証することにした。転倒ますの容量が、0.2mm計、0.5mm計、1.0mm計の3台の転倒ます型雨量計を野外に設置し、比較観測を実施した。
比較観測は、日本(潮岬:京都大学防災研究所潮岬風力実験所露場)と、日本よりさらに激しい降水現象が発生し、世界有数の多雨地点である、インド北東部メガラヤ州のチェラプンジの2か所で行った。
観測期間は、潮岬は、2013年6月16日から11月7日まで、チェラプンジは2014年4月28日から9月6日までの約4~5か月間である。比較観測で使用した雨量計は、潮岬、チェラプンジとも同じものである。
観測期間の1.0mm計、0.5mm計、0.2mm計の積算降水量は順に、潮岬は、1258.0mm、1244.5mm、1209.4mmであった。またチェラプンジは8643.0mm、8379.5mm、8154.0mmであった。観測期間は異なるものの、チェラプンジの積算降水量は、潮岬の6倍以上であった。1.0mm計の積算降水量を基準とした0.5mm計、0.2mm計の積算降水量の割合を見ると、潮岬では99%、96%、チェラプンジは97%、94%で、ますの大きさが小さくなると積算降水量も少なくなることが確認できた。
1.0mm計の転倒の時間間隔から、観測雨量1.0mm(1転倒)毎の降水強度を求めた。0.2mm計の測定限界である80mm/h(製造者仕様)超の降水現象が、潮岬では、72例(全体の5%)で、チェラプンジは1249例(同14%)発生している。また、200mm/hを超える猛烈な降水現象についても、潮岬では3例(最大降水強度は225mm/h)、チェラプンジでは15例(同300mm/h)観測された。
1.0mm計が1転倒する時間内に発生した、0.2mm計の転倒回数と降水強度の関係を調査した。その結果、潮岬、チェラプンジ共に、0.2mm計の測定範囲内である80mm/h以下の降水強度では、転倒回数5回を中心に±2回の範囲におおむね収まっていることがわかった。しかし、降水強度が80mm/hを超えると、転倒回数が5回よりも少ない場合が多いことがわかった。その傾向は、チェラプンジではより顕著である。同様に1.0mm計の1転倒に対する、0.5mm計の転倒回数も、降水強度が200mm/hを超えると、転倒回数が少なくなる傾向が見られた。
まとめとして、今回の比較観測では、最大300mm/hに達する事例をはじめ、激しい降水強度での比較観測が実施できた。
その結果、1.0mm計と比べて0.2mm計は降水強度が80mm/hを超えると追従できていない現象を確認した。
また、0.5mm計についても、十分追従できていない限界があることが分かった。
南アジアや東南アジアなどの激しい降水現象が発生する所については、その地域で想定される降水強度にあった雨量計を使用することが適切である。