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[SSS26-05] 高周波地震波形シミュレーションから推定されるタール火山の減衰構造と地震波動場の特性
キーワード:Q値, マグマ, ASL法, 差分法, 放射パターン
フィリピンのタール火山は世界で最も活発な火山のひとつであり,現在は40年近く噴火が起こっておらず,いつ噴火してもおかしくない状態にある.Kumagai et al. [GRL, 2014]は,高周波地震波振幅を用いた手法(ASL法)によって地表付近に強い減衰領域(Q異常領域)があることを推定した.さらに,その領域にはマグマがあり,将来その場所から噴火する可能性が示唆されている.ASL法は,地震波が散乱の効果によってS波が卓越し,振幅が距離のみに依存する等方輻射が成り立つという単純な仮定に基づくものである.このような仮定で推定されたQ異常領域の妥当性と高周波地震波動場の特性を調べるために,本研究では,波形シミュレーションで波動場を計算し,広い周波数帯で波形を解析した.
波形シミュレーションにはMaeda et al. [BSSA, 2013]によって開発されたSEISMを使用した.このプログラムは運動方程式の時間発展を差分法で解いて波動場を計算しており,時間発展は2次精度,空間微分は4次精度で差分化する.粘弾性体モデルにより3次元のQ構造を考慮でき,また地形と3次元地下構造も考慮できる.
シミュレーションの計算範囲はタール火山を含む13×17×10 kmで,空間グリッドサイズは15 m,時間刻み幅は0.0010秒とした.P波・S波速度と密度は一定として,(1)Q値50で一定の場合,(2)ASL法で推定されたQ値10の異常領域を含む場合,(3)Q異常領域を拡大した場合,(4)Q異常領域を縮小した場合の4つについて計算した.震源位置とメカニズムは,初動走時と初動の押し引きで決められた,タール火山で起こった2つのイベント(火山島の南東部と北西部)のものを用いた.
観測波形と合成波形を比較して定量的に評価するために,各観測点において4つの周波数帯(1-6,3-8,5-10,7-12 Hz)で10秒間の平均振幅をとり残差を求めた.北西部のイベントでは,Q異常領域を拡大した場合のみ残差が大きくなり,他の3つの場合はほぼ同じ値をとっていた.一方で南東部のイベントでは,高周波側になるにしたがって残差に違いが現れ,最も小さくなったのはASL法で推定されたQ異常領域の場合であった.
本研究の波形シミュレーションでは,ASL法で推定されたQ異常領域と整合的な結果が得られた.ASL法は散乱の効果によってS波の等方輻射という単純な仮定が成り立つとする確率論的アプローチであるのに対し,本研究の波形シミュレーションは決定論的アプローチであるが,Q異常領域に関する結果は等しくなった.さらに,メカニズムには複数の候補があったため,それぞれのメカニズムについて合成波形を計算し,観測波形との残差を求めたところ,メカニズムによって残差に違いがみられた.もし,観測波形で等方輻射の仮定が成り立っているとすると,どのようなメカニズムで合成波形を計算しても残差は大きく変化しないと考えられる.2つのアプローチによるQ異常領域の結果の一致とメカニズムによる残差の違いから,観測波形は高周波側で放射パターンの崩れはあるがメカニズムの影響もある程度受けているのではないかと考えられる.
波形シミュレーションにはMaeda et al. [BSSA, 2013]によって開発されたSEISMを使用した.このプログラムは運動方程式の時間発展を差分法で解いて波動場を計算しており,時間発展は2次精度,空間微分は4次精度で差分化する.粘弾性体モデルにより3次元のQ構造を考慮でき,また地形と3次元地下構造も考慮できる.
シミュレーションの計算範囲はタール火山を含む13×17×10 kmで,空間グリッドサイズは15 m,時間刻み幅は0.0010秒とした.P波・S波速度と密度は一定として,(1)Q値50で一定の場合,(2)ASL法で推定されたQ値10の異常領域を含む場合,(3)Q異常領域を拡大した場合,(4)Q異常領域を縮小した場合の4つについて計算した.震源位置とメカニズムは,初動走時と初動の押し引きで決められた,タール火山で起こった2つのイベント(火山島の南東部と北西部)のものを用いた.
観測波形と合成波形を比較して定量的に評価するために,各観測点において4つの周波数帯(1-6,3-8,5-10,7-12 Hz)で10秒間の平均振幅をとり残差を求めた.北西部のイベントでは,Q異常領域を拡大した場合のみ残差が大きくなり,他の3つの場合はほぼ同じ値をとっていた.一方で南東部のイベントでは,高周波側になるにしたがって残差に違いが現れ,最も小さくなったのはASL法で推定されたQ異常領域の場合であった.
本研究の波形シミュレーションでは,ASL法で推定されたQ異常領域と整合的な結果が得られた.ASL法は散乱の効果によってS波の等方輻射という単純な仮定が成り立つとする確率論的アプローチであるのに対し,本研究の波形シミュレーションは決定論的アプローチであるが,Q異常領域に関する結果は等しくなった.さらに,メカニズムには複数の候補があったため,それぞれのメカニズムについて合成波形を計算し,観測波形との残差を求めたところ,メカニズムによって残差に違いがみられた.もし,観測波形で等方輻射の仮定が成り立っているとすると,どのようなメカニズムで合成波形を計算しても残差は大きく変化しないと考えられる.2つのアプローチによるQ異常領域の結果の一致とメカニズムによる残差の違いから,観測波形は高周波側で放射パターンの崩れはあるがメカニズムの影響もある程度受けているのではないかと考えられる.