17:30 〜 17:45
[SIT35-12] マックスウェル粘弾性体力学方程式の従来とは別の見方に立つ定式化
キーワード:プレート・マントル結合系力学, マントル対流, マックスウェル粘弾性体, 粘弾性体力学, 弾塑性体力学
岩石からなる地殻・マントルやグリーンランド・南極に存在する氷床は普通の意味では固体であるにもかかわらず、長い時間では「流動する」とみなされ、その動きを支配する法則として粘性流体に対するNavier-Stokes方程式が採用される(例えばMcKenzie, Roberts and Weiss, 1974, ほか無数)。これは物理学として正しいのであろうか?
文献により歴史を振り返ると、氷期終了後の地殻の上昇を扱ったHaskell(1935)やその同僚でマントル対流を論じたPekeris(1935)など先駆的研究を参照しながら、McKenzieはプレートテクトニクス時代のマントル対流研究の基礎づけとなるような小論”The viscosity of the mantle(1967, Geophys. J. roy. astr. Soc. 14, p.297)”の冒頭で次のように述べている。
Creep under low stress is by diffusion and has a linear relation between stress and strain rate; it also obeys the Navier-Stokes equation. Therefore the viscosity of the mantle may be calculated from solid state theory and also from the slow deformation of the Earth.
ここでは粘性流動の物理的基礎として、固体物理や材料工学で知られているクリープ現象、即ち固体に剪断応力をかけ続けるとそれに応じたずれ変形が生じ、時間と共にそれが大きくなる現象を固体の「流れ」とみなしていることがわかる。上の文は、この応力―歪(速度)関係を流体力学方程式の内部応力として採用する、と言っているととれる。
即ち、方程式中の応力をせん断歪速度で表現し、その係数を粘性率と呼ぶのである。ところが、流体運動方程式で粘性力の効果は「運動量拡散」を表すことは数学的・物理的に明らかだが、この小論や固体地球科学で想定される大きな粘性率、たとえば10**21Pa・secを使うなら、全マントル内に光速をも超える速さで運動量が拡散することを意味し、この論は物理学として受け入れられない。(Forte, 2007; Treatise on Geophysics, Vol.1, 1.23, p813 に計算あり。しかし、この事実に驚いたり、おかしいと言ったりしていない。)
上記の英語でも、日本語でも、“応力―歪(速度)関係”という時、どちらが原因でどちらが結果か明白でない。「固体の流動」から思い浮かぶようにクリープ現象では外から加える力が原因で、実際、粘性率を求める実験では剪断応力を与えた上でその結果生じるクリープ速度が測定されている。これに対し、流体力学方程式における応力―歪速度関係は逆で、歪速度(速度シアー)が原因となって生じる応力を方程式の粘性項で表現することが求められているのである。この混同が考え違いの原因であろう。
このような間違いを起こさない「新しい定式化」を昨年の学会で発表したが、若手から碩学に至るまで、固体地球物理学者は釈然としないようであった。今回は定式化の概略を繰り返すとともに上記観点や、弾性力と粘性力という「二つの応力が一つの物体の中で働いているという不思議」など基本的疑問を中心に説明したい。
従来と異なる見方に立った定式化の概略を箇条書きすると次の通り(昨年発表のまとめ)。
・Maxwellによるばねとダッシュポットの模型による構成則を基に展開された粘弾性体の力学方程式系を再検討した。応力の時間発展を表す構成方程式は物理的根拠が不明である。
・新しい視点でばねとダッシュポットの模型を考えると、力の源はばねのみで、ダッシュポットの役割は粘性力ではなく、ばねの原点の位置の時間変化を記述するものとみなせる。
・この見方に立って連続体への翻訳を考えると、応力の源は弾性歪のみでよく、一方、これまでの構成則は「弾性歪が時と共に塑性歪に転化する」ということを表す、と翻訳できる。
・このことは日常経験からも明らかであり、工学(材料力学)の教科書で、弾塑性体におけるReussの構成側(1930)と呼ばれるものと同じである。実験的に検証されていると記される。
・それゆえ、Maxwell構成則に代わり、この構成則を物理的基礎に立つ法則とし、連続体の運動方程式とあわせて「弾塑性体」の基礎方程式系とするのが適切である。
・非発散の場合の基礎方程式系は、塑性変位の時間変化(弾性変位の原点の変化)を「流れ」とみなすと、ゆっくり変化する現象については粘性流体の方程式と数学的に同等となる。したがってその解は見かけ上粘性流体の運動となるが粘性は見かけのものにすぎない。
・発散のある圧縮性弾性体では、相変化がおこらない限り、塑性変位に転化するのは偏差成分(deviatoric component)のみと考えられるから、単純に粘性流体と同じにはならない。
・発散を含む一般の場合、時間的にゆっくり変わる現象に対しては、運動方程式(力のバランス)は準弾性平衡を保ったまま、塑性歪(偏差成分)が弾性歪の偏差成分に比例して増加するような時間変化をする。
文献により歴史を振り返ると、氷期終了後の地殻の上昇を扱ったHaskell(1935)やその同僚でマントル対流を論じたPekeris(1935)など先駆的研究を参照しながら、McKenzieはプレートテクトニクス時代のマントル対流研究の基礎づけとなるような小論”The viscosity of the mantle(1967, Geophys. J. roy. astr. Soc. 14, p.297)”の冒頭で次のように述べている。
Creep under low stress is by diffusion and has a linear relation between stress and strain rate; it also obeys the Navier-Stokes equation. Therefore the viscosity of the mantle may be calculated from solid state theory and also from the slow deformation of the Earth.
ここでは粘性流動の物理的基礎として、固体物理や材料工学で知られているクリープ現象、即ち固体に剪断応力をかけ続けるとそれに応じたずれ変形が生じ、時間と共にそれが大きくなる現象を固体の「流れ」とみなしていることがわかる。上の文は、この応力―歪(速度)関係を流体力学方程式の内部応力として採用する、と言っているととれる。
即ち、方程式中の応力をせん断歪速度で表現し、その係数を粘性率と呼ぶのである。ところが、流体運動方程式で粘性力の効果は「運動量拡散」を表すことは数学的・物理的に明らかだが、この小論や固体地球科学で想定される大きな粘性率、たとえば10**21Pa・secを使うなら、全マントル内に光速をも超える速さで運動量が拡散することを意味し、この論は物理学として受け入れられない。(Forte, 2007; Treatise on Geophysics, Vol.1, 1.23, p813 に計算あり。しかし、この事実に驚いたり、おかしいと言ったりしていない。)
上記の英語でも、日本語でも、“応力―歪(速度)関係”という時、どちらが原因でどちらが結果か明白でない。「固体の流動」から思い浮かぶようにクリープ現象では外から加える力が原因で、実際、粘性率を求める実験では剪断応力を与えた上でその結果生じるクリープ速度が測定されている。これに対し、流体力学方程式における応力―歪速度関係は逆で、歪速度(速度シアー)が原因となって生じる応力を方程式の粘性項で表現することが求められているのである。この混同が考え違いの原因であろう。
このような間違いを起こさない「新しい定式化」を昨年の学会で発表したが、若手から碩学に至るまで、固体地球物理学者は釈然としないようであった。今回は定式化の概略を繰り返すとともに上記観点や、弾性力と粘性力という「二つの応力が一つの物体の中で働いているという不思議」など基本的疑問を中心に説明したい。
従来と異なる見方に立った定式化の概略を箇条書きすると次の通り(昨年発表のまとめ)。
・Maxwellによるばねとダッシュポットの模型による構成則を基に展開された粘弾性体の力学方程式系を再検討した。応力の時間発展を表す構成方程式は物理的根拠が不明である。
・新しい視点でばねとダッシュポットの模型を考えると、力の源はばねのみで、ダッシュポットの役割は粘性力ではなく、ばねの原点の位置の時間変化を記述するものとみなせる。
・この見方に立って連続体への翻訳を考えると、応力の源は弾性歪のみでよく、一方、これまでの構成則は「弾性歪が時と共に塑性歪に転化する」ということを表す、と翻訳できる。
・このことは日常経験からも明らかであり、工学(材料力学)の教科書で、弾塑性体におけるReussの構成側(1930)と呼ばれるものと同じである。実験的に検証されていると記される。
・それゆえ、Maxwell構成則に代わり、この構成則を物理的基礎に立つ法則とし、連続体の運動方程式とあわせて「弾塑性体」の基礎方程式系とするのが適切である。
・非発散の場合の基礎方程式系は、塑性変位の時間変化(弾性変位の原点の変化)を「流れ」とみなすと、ゆっくり変化する現象については粘性流体の方程式と数学的に同等となる。したがってその解は見かけ上粘性流体の運動となるが粘性は見かけのものにすぎない。
・発散のある圧縮性弾性体では、相変化がおこらない限り、塑性変位に転化するのは偏差成分(deviatoric component)のみと考えられるから、単純に粘性流体と同じにはならない。
・発散を含む一般の場合、時間的にゆっくり変わる現象に対しては、運動方程式(力のバランス)は準弾性平衡を保ったまま、塑性歪(偏差成分)が弾性歪の偏差成分に比例して増加するような時間変化をする。