16:30 〜 16:45
[SVC49-09] 夜間空中赤外観測から推定される草津白根山の浅部熱水活動
キーワード:草津白根火山, 空中赤外観測, 火口湖, 噴気地, 熱水系, 放熱率
草津白根山では2014年3月以降,緩やかな地殻変動,群発地震,地磁気変化,および火山ガス CO2 濃度増加が観測されていることから,火口直下浅部に熱水が蓄積されつつあると考えられている.同様の現象は口永良部島で1997年以降に観測されており,2003~06年頃から地表面熱活動に明瞭な活発化が認められ(井口,2007),2014年8月には爆発的噴火が発生した.草津白根山は熱水系がよく発達した火山として知られており,同じく熱水系が発達する口永良部島の事例と比較すると,草津白根山においても,同様の地表面熱活動の活発化が進むことが考えられる.そこで本研究では,2014年から新たに蓄積されつつあると考えられる浅部熱水だまりと,同山における地表面熱活動との関係を定量化し,草津白根山火口周辺の熱水系の構造を検討した.
地熱の観測手法として,地表面温度とその面積を簡単に測定できる赤外カメラは有効である.赤外画像を解析することで,熱および火山ガス放出量を見積もることも可能である.しかし,日中は日射により地表面が加熱されるため,しばしば,火山活動によって生じた地表面温度を評価することが困難となる.そこで本研究では,日射の影響が無視できる夜間に,軽飛行機を用いた空中赤外観測を試みて,同火山の噴気地および火口湖の温度分布の詳細を測定した.
観測は2014年10月24日18~19時にかけて実施した.使用した赤外カメラは日本アビオニクス社製H2630で,画素数は640×480pixelである.観測は対地高度1500m前後で行い,解像度は0.81㎡/pixel前後である.測定された地表面温度は,地表面に設置した温度計データとほぼ一致した.
当日の日没時刻は17時08分であり,観測対象は東から北斜面に存在することから,観測環境は大変良好であった.この結果,火山活動に起因する地表面温度をよく抽出できた.火口湖については次元解析に基づく式(Ryan et al., 1974)を,噴気地については水放出量を計算するために江原・岡本(1980)の式を用いた.この結果,山体表面からのH2O放出量は約20 kg/s と推定された.
同火山では,日射の影響が含まれる2012年10月26日08~09時にも空中赤外観測が実施されている.定量性には不確実性が含まれるものの,2014年の観測データと比較した.その結果,膨張力源に近く,2014年に火山ガス組成変化が観測された山頂周辺噴気からの総放熱量と総放水量に,明瞭な増減は認められないことが明らかになった.その一方で,山麓に位置する殺生河原は衰退したように見える.
さらに,湯釜火口湖からの水蒸発量を検討したところ,2012年と比較して明らかに増加していることが分かった.湯釜火口湖に設置されている水温計の記録によれば,湯釜の水温上昇は,火口直下の熱水蓄積率が低下した2014年5月頃に起きたことが分かる.さらに,熱水蓄積率の低下量と,湯釜火口湖からの蒸発増加量が概ね一致している.これらのことから,膨張変動の最盛期であった2014年5月頃に熱水だまりの一部が緩やかに破壊して,熱水の一部が湯釜湖底から流出し始めたと考えられる.傾斜変動観測によれば,同年5月以降,地下の熱水蓄積率が低下している.湯釜湖面蒸発量が増えていることから,深部からの流体供給は一定の割合で継続しているものと考えられる.
なお,これまで,湯釜火口湖の熱活動は水温計データに基づいて解析されてきた.今回測定された湖表面温度は,水温計で測定した値よりも3℃異なっている.この値を放熱量に換算すると,水温計に基づく蒸発量推定値は,実際よりも2割程度過大に評価され得ることが分かる.
地熱の観測手法として,地表面温度とその面積を簡単に測定できる赤外カメラは有効である.赤外画像を解析することで,熱および火山ガス放出量を見積もることも可能である.しかし,日中は日射により地表面が加熱されるため,しばしば,火山活動によって生じた地表面温度を評価することが困難となる.そこで本研究では,日射の影響が無視できる夜間に,軽飛行機を用いた空中赤外観測を試みて,同火山の噴気地および火口湖の温度分布の詳細を測定した.
観測は2014年10月24日18~19時にかけて実施した.使用した赤外カメラは日本アビオニクス社製H2630で,画素数は640×480pixelである.観測は対地高度1500m前後で行い,解像度は0.81㎡/pixel前後である.測定された地表面温度は,地表面に設置した温度計データとほぼ一致した.
当日の日没時刻は17時08分であり,観測対象は東から北斜面に存在することから,観測環境は大変良好であった.この結果,火山活動に起因する地表面温度をよく抽出できた.火口湖については次元解析に基づく式(Ryan et al., 1974)を,噴気地については水放出量を計算するために江原・岡本(1980)の式を用いた.この結果,山体表面からのH2O放出量は約20 kg/s と推定された.
同火山では,日射の影響が含まれる2012年10月26日08~09時にも空中赤外観測が実施されている.定量性には不確実性が含まれるものの,2014年の観測データと比較した.その結果,膨張力源に近く,2014年に火山ガス組成変化が観測された山頂周辺噴気からの総放熱量と総放水量に,明瞭な増減は認められないことが明らかになった.その一方で,山麓に位置する殺生河原は衰退したように見える.
さらに,湯釜火口湖からの水蒸発量を検討したところ,2012年と比較して明らかに増加していることが分かった.湯釜火口湖に設置されている水温計の記録によれば,湯釜の水温上昇は,火口直下の熱水蓄積率が低下した2014年5月頃に起きたことが分かる.さらに,熱水蓄積率の低下量と,湯釜火口湖からの蒸発増加量が概ね一致している.これらのことから,膨張変動の最盛期であった2014年5月頃に熱水だまりの一部が緩やかに破壊して,熱水の一部が湯釜湖底から流出し始めたと考えられる.傾斜変動観測によれば,同年5月以降,地下の熱水蓄積率が低下している.湯釜湖面蒸発量が増えていることから,深部からの流体供給は一定の割合で継続しているものと考えられる.
なお,これまで,湯釜火口湖の熱活動は水温計データに基づいて解析されてきた.今回測定された湖表面温度は,水温計で測定した値よりも3℃異なっている.この値を放熱量に換算すると,水温計に基づく蒸発量推定値は,実際よりも2割程度過大に評価され得ることが分かる.