日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC45] 活動的火山

2015年5月27日(水) 16:15 〜 18:00 304 (3F)

コンビーナ:*青木 陽介(東京大学地震研究所)、座長:森 俊哉(東京大学大学院理学系研究科地殻化学実験施設)、寺田 暁彦(東京工業大学火山流体研究センター)

17:12 〜 17:15

[SVC45-P06] 草津白根火山における微小地震の震源再決定

ポスター講演3分口頭発表枠

*桑原 知義1寺田 暁彦1神田 径1小川 康雄1 (1.東京工業大学)

キーワード:草津白根火山, 地震波速度構造, 微小地震

草津白根火山では,山頂火口に相当する湯釜火口湖周辺のごく浅部を震源とする群発地震が2014年3月に始まった.同3月6日以降,地震発生頻度は以前の2.3回/日から26回/日へと約10倍に増加し,同年8月以降は発生回数の減少が認められる.しかし,消長しつつも発生頻度の高い状態が2015年2月においても継続している.今回の地震活動は,緩やかな地殻変動や熱消磁,火山ガス組成の変化を伴っており,火口直下に流体蓄積が進行していると考えられる.このような流体がどこから供給されているのか,また,流体蓄積と地下構造との関係を検討するためには,信頼性の高い震源決定が必要である.

東京工業大学は,2014年の時点で6箇所に地震計を展開して常時観測を行っている.これまで震源決定に用いているP速度構造は,海抜標高0mにおいて5.5km/hから,同1500mにおける2.0km/hまで連続的に低下するモデルであり,S波速度との比は1.73である(森・他,2006).その後,地震観測点の組み合わせが変更されたこと,さらに,系統的に大きな走時残差が得られる観測点があり,これが解の収束に影響していることを認識した.そこで本研究では,2014年3月から4月にかけて発生した約3000個の地震の中から,湯釜周辺で発生し,比較的規模の大きく,波形の立ち上がりが明瞭な約40個の地震を選択した.これら地震の再検測を行うとともに,走時残差に基づいて,最適と思われる地震波速度構造および観測点補正値を求め,震源再決定を行った.

使用したデータは,3台のボアホール型地震計,および3台の地表設置型地震計の記録で,いずれも100Hzでサンプリングされたものである.全ての地震観測点は火口から半径1kmにあり,震央もこの内部にある.震源の深さも地表から1km程度である.

走時残差に基づいて最適構造を推定するために,非線形最小二乗法に基づいて自作した震源決定プログラムと,hypomh(Hirata and Matsu’ura, 1986)を用いた.解析の結果,層構造を用い,さらに観測点補正値を加えることが適切であることがわかった.地震波速度は,従来から用いてきた構造モデルと比較して,やや速い値が得られた.地震波到着時刻を検討すると,ボアホール型については系統的に早く到達し,地表設置型では遅い傾向が認められる.これは,表層付近の未固結な堆積物を反映したものと解釈できる.さらにS波速度については,P波速度との比が,通常の岩石の典型値と考えられる1.73よりも小さい場合に,より走時残差を小さく抑える傾向が認められた.ただし,通常の方法ではS波到着時刻を読み取りが難しく,定量的な議論は今後の課題である.

以上のように再検討された地下構造,および今回決定した観測点補正値に基づき,震源再決定を行った.従来の東京工業大学の震源決定結果と比較すると,湯釜とその周辺に分布していた震央は,湯釜火口南東部の200m程度の領域に集中する傾向が認められた.震源の深さは海抜1000m前後で,従来までの結果と大きな変化は認められない.

本研究で求められた震央分布は,傾斜変動に基づく圧力源とは必ずしも一致しない.これは,膨張変動が塑性変形により進行していること示唆する.ただし,圧力源周辺において地震が少ないという結果の有意性については,震源決定精度も含めて更なる検討が必要である.特に南側には観測点が少ないため,2014年8月に臨時観測点を2箇所に設置して,地震観測を強化している.

謝辞 地震観測システムの改善にあたり,気象庁の鬼澤真也博士,秋田大学の筒井智樹博士,宮町凜太郎氏のご支援を頂きました.波形検測には松田慎一郎氏からご助言を頂きました.ここに記して深く感謝します.