日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG56] 日本の原子力発電と地球科学:地震・火山科学の限界を踏まえて

2015年5月27日(水) 09:00 〜 10:45 103 (1F)

コンビーナ:*川勝 均(東京大学地震研究所)、金嶋 聰(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、末次 大輔(海洋研究開発機構 地球内部変動研究センター)、橋本 学(京都大学防災研究所)、座長:川勝 均(東京大学地震研究所)、末次 大輔(海洋研究開発機構 地球内部変動研究センター)

09:40 〜 09:55

[SCG56-03] 大飯原発運転差止判決における科学の問題

*纐纈 一起1 (1.東京大学地震研究所)

キーワード:福井地裁判決, 大飯原発, 運転差止, 科学・技術的問題

判決で挙げられている科学・技術上の問題をまとめると以下の4点となる:(1) ストレステストで得られたクリフエッジ(それを超える地震動が来れば原発全体の安全機能が喪失するレベル)である1260ガルを超える地震動が万が一にも来ないと,確実な科学的根拠に基づいて想定することは不可能である.(2) ストレステストの際に新たに算出された基準地震動(Sクラスの重要施設・設備の安全機能が保持されるレベル)である700ガルから1260ガルまでの地震動が来る危険性があり,これに対して確実に対応策が取れるか否かについては,事象の把握困難・同時多発・訓練不能などの理由で万が一の危険性が存在する.(3) 耐震設計審査指針ではB・Cクラスの施設・設備に対して基準地震動で安全機能が保持されることを要求していない.従って,700ガル未満の地震動が来た場合でも,Sクラスに入っていない外部電源や主給水の設備の安全機能が失われる危険性がある.(4) 使用済み核燃料が置かれた使用済み核燃料プールは,原子炉に対する原子炉格納容器のような,放射性物質が漏れ出さないように閉じ込めておく堅固な設備が存在しないので,事故時に放射性物質が放出される危険性がある.
これらのうち,これらのうち(1)と(2)は万が一の危険性であり,(1)や(2)が起きないと科学的に否定することはできないが,確実にいつかは起こると科学的に立証することもできない.一方,(3), (4)にはかなり確実な危険性があると考えられる.(4)はやや具体性に欠けるので(3)を取り上げると,700ガル未満の地震動が発生することはかなりの確率で起こり得ることであり,外部電源の設備がそれにより被災することは同じくかなりの確率で起こり得ることである.外部電源設備の被災は福島原発事故の原因のひとつであったことを考えれば,これをもって大飯原発が事故を起こす危険性があるとすることは科学的に妥当であるように見える.さらには,原子力規制委員会による新規制基準 において,この問題に対して外部電源設備の重要度分類をSクラスに格上げするのではなく,Bクラスのままで独立した2系統の外部電源を用意させるとしていることは適切ではないとこの判決では判断されていることになり,その判断は科学的に正しいように見える.