日本地球惑星科学連合2015年大会

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口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-RE 応用地質学・資源エネルギー利用

[H-RE28] 地球温暖化防止と地学(CO2地中貯留・有効利用,地球工学)

2015年5月25日(月) 11:00 〜 12:45 105 (1F)

コンビーナ:*徳永 朋祥(東京大学大学院新領域創成科学研究科環境システム学専攻)、薛 自求(財団法人 地球環境産業技術研究機構)、徂徠 正夫(独立行政法人産業技術総合研究所地圏資源環境研究部門)、座長:徂徠 正夫(独立行政法人産業技術総合研究所地圏資源環境研究部門)

11:30 〜 11:45

[HRE28-09] 互層中に圧入されたCO2の長期挙動に関する層内部構造及び岩石物性の感度解析

*加野 友紀1石戸 経士1徂徠 正夫1 (1.産業技術総合研究所 地圏資源環境研究部門)

キーワード:CO2地中貯留, 塩水帯水層, 互層構造, 異方性, 数値シミュレーション

CO2地中貯留において我が国に広く分布する砂泥互層のように高浸透率層と低浸透率層が鉛直方向に交互に分布する場合、CO2には複層によるトラッピング効果及び溶解・残留ガストラッピングメカニズムが働くことが期待される。一般に堆積岩については水平方向と鉛直方向で浸透率に異方性を与えることが多いが、実際の地層においては更に細層の互層構造を有する、または泥岩に砂岩脈が貫入していることによってそのような異方性が生じている場合があるものと考えられる。これらの層内部構造の差異は、平均浸透率は同等であってもCO2の長期挙動に影響を及ぼす可能性がある。本研究では泥勝ち層と砂勝ち層の互層系において、各層の内部構造及び岩石物性が圧入CO2の長期挙動にどのように影響するかを数値シミュレーションにより検討した。
シミュレーションで使用した放射流モデルは水平方向に20 km、鉛直方向に1.4 kmの領域を対象とし、上端には水深200 mの海底を想定して温度10 ℃、圧力2.0 MPaの条件を設定した。最上部の300 mには未固結堆積物が分布し、その下に層厚120 mの泥勝ち層と砂勝ち層が交互に計8層分布する(この960 mにわたる互層部分の鉛直方向のグリッド分割は10 mとした)。最下部の100 mは基盤岩とした。各砂勝ち層の浸透率は鉛直・水平方向に10/100 mD、泥勝ち層は1/10 mDと0.1/1 mDの2つの場合を検討した。各砂勝ち層と泥勝ち層のモデルとして、1) 120 m厚の一様媒質を基本として、2) 等方性浸透率を有する30 m厚の砂岩層・泥岩層各2枚から成る“細分互層モデル”、3) 等方性浸透率を有する10 m厚の砂岩層・泥岩層各6枚から成る“細分互層モデル”、4) 120 m厚の不透水マトリクスに砂岩脈の入ったダブルポロシティ(MINC)モデルの3つのバリエーションを考えた。2)と3)の“細分互層モデル”では、砂岩層と泥岩層の浸透率をそれらの調和平均および算術平均が(砂勝ち層もしくは泥勝ち層の)それぞれ鉛直方向および水平方向の浸透率になるよう設定した。
毛管圧はvan Genuchten型とし、スレッショルド圧Pthは実験から得られた関係を用いて鉛直浸透率kzの関数として与えた。この関数には粒子サイズが均質な焼結体と不均質な実岩石の各系から得られた2つを使用した。また、主にCO2を貯留する砂岩層における相対浸透率ヒステリシスの有無についてもケース分けを行った。水及びCO2の相対浸透率の関数はヒステリシスを除き全層共通とし、それぞれvan Genuchten型及びCorey型で表されるものとした。CO2は深度940 mから1,060 m間の砂勝ち層に年間100万トンのレートで50年間圧入されるものとした。
以上のモデルにより4×2×2×2 = 32ケースの感度解析として圧入期間の50年間及びその後1000年間におけるCO2プルームの広がりや地層水への溶解量等に関するシミュレーションを行った。計算には、汎用貯留層シミュレータSTARと状態方程式SQSCO2を用いている。
シミュレーションの結果、泥勝ち層のkz = 1 mD、実岩石系スレッショルド圧のケースでは、1) の120 m厚一様媒質の場合、1000年後にはCO2が深度640 mまで上昇したが、2) 30 m厚と3)10 m厚の“細分互層モデル”の場合は複層によるトラッピング効果がより顕著になり圧入砂勝ち層上部での圧力上昇が緩和され、圧入停止後の泥勝ち層へのCO2上昇は限られたものとなった。また、4) のMINCモデルの場合は、高浸透性、低スレッショルド圧の砂岩脈中を圧入停止後もCO2の上昇が続く。ただし深度700 mから360 mの間で温度圧力条件から液相に転じることで上昇が抑制され、1000年後においては深度120 mまでの上昇となった。このように120 m厚の砂勝ち層、泥勝ち層の平均浸透率が同等であっても、その内部構造によってCO2の長期挙動には大きな違いが見られる結果となった。
また、焼結体系のスレッショルド圧(kz = 1 mDでPth = 377 kPa)を用いると120 m一様媒質の場合でも圧入停止後のCO2上昇は著しく抑制されることや、特に“細分互層構造”では相対浸透率ヒステリシスの効果は比較的小さいことなどが明らかになった。
本研究は、経済産業省からの委託研究「二酸化炭素回収・貯蔵安全性評価技術開発事業(弾性波探査を補完するCO2挙動評価技術の開発)」の一部として実施した。