[M-IS32] 地球掘削科学

[MIS32-09] 国際深海掘削科学計画第351次研究航海で得られたメルト包有物から探る伊豆ー小笠原ーマリアナ弧の火成活動の時間発展

*浜田 盛久¹、ブランドル フィリップ² (1.独立行政法人海洋研究開発機構、2.オーストラリア国立大学地球科学研究所)

キーワード：国際深海科学掘削計画, 伊豆―小笠原―マリアナ弧, 九州パラオ海嶺, 奄美三角海盆, メルト包有物

国際深海掘削科学計画第351次研究航海（2014年6～7月に実施）では，伊豆―小笠原―マリアナ（IBM）弧の古島弧である九州パラオ海嶺の西側に位置する奄美三角海盆海域のU1438地点の掘削が行われた．回収された1611 mのコアのうち，上位1461ｍは堆積物であり，下位150ｍは基盤の海洋地殻である．岩石学的記載に基づき，堆積物は４つのユニットに区分される．最上位のユニットI（厚さ160.3 ｍ）は, おそらく琉球弧や九州弧の爆発的火山活動に由来すると考えられる火山灰の層を幾重にも挟む新生代の半遠洋性堆積物から成る．ユニットII（厚さ139.4 m）は漸新世後期のタービダイトから，ユニットIII（厚さ1046.4 m）は漸新世から始新世にかけてのより粗粒なタービダイトから成る．ユニットIV（厚さ99.7 m）は，凝灰岩質の砂岩に挟まれた珪長質の遠洋性堆積物から成る．

初期のIBM弧の火成活動の時間発展を調べるため，私たちはユニットIII（船上で決定された生層序年代は30-40 Ma）から採取したメルト包有物の主要元素および揮発性元素（ClおよびS）を、海洋研究開発機構およびオーストラリア国立大学に設置されている電子線プローブマイクロアナライザー（EPMA）を用いて分析した．メルト包有物は単斜輝石または斜長石に包有されており，メルト包有物の化学組成は玄武岩から流紋岩まで，また低K₂O系列から中K₂O系列まで幅広く多様である．主要元素で比較する限りにおいて，低K₂O系列のメルト包有物の組成は，IBM弧の前弧域あるいは火山フロントから報告されている液（メルト）の組成と一致している．中K₂O系列のメルト包有物の組成は，九州パラオ海嶺や奄美三角海盆海域付近の火山といったIBM弧の背弧域の火山から報告されている液（メルト）の組成と一致する．これらの観察事実より，奄美三角海盆海域に堆積したタービダイトにはIBM弧の背弧域に由来するものばかりではなく，前弧域あるいは火山フロントに由来するものも含まれることが示唆される．

約3500万年前よりも古い低K₂O系列と中K₂O系列のメルト包有物は，玄武岩〜安山岩質である．流紋岩質のメルトは約3500万年前以降に突如として出現する．中間的な化学組成（66-74 wt.% SiO₂）のメルト包有物は比較的少ないことから，それらのメルトが苦鉄質メルトと珪長質メルトとの混合物である可能性を示唆する．私たちは，約5000万年前にプレートの沈み込みが開始されて以降約3500万年前までの間に島弧火山直下の中部地殻は成長を続けて厚くなり，約3500万年前以降，中部地殻が部分融解して流紋岩質マグマが形成されたと考える．