日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 U (ユニオン) » ユニオン

[U-07] 連合は環境・災害にどう向き合っていくのか?

2015年5月28日(木) 16:15 〜 18:00 103 (1F)

コンビーナ:*田中 賢治(京都大学防災研究所)、作野 裕司(広島大学大学院工学研究院)、後藤 真太郎(立正大学地球環境科学部環境システム学科)、座長:田中 賢治(京都大学防災研究所)、作野 裕司(広島大学大学院工学研究院)、後藤 真太郎(立正大学地球環境科学部環境システム学科)

16:45 〜 17:00

[U07-19] 水循環基本法の成立と今後の展望

*田中 正1 (1.筑波大学国際室)

キーワード:日本水文科学会, 水循環基本法, 水循環基本計画原案, 環境災害, 3.11 原子力災害, 社会のための科学

2014年3月27日,予ねてからの懸案であった「水循環基本法案」が第186回通常国会の衆議院本会議で審議され,全会一致で可決,成立した。これを受けて,「水循環基本法」(2014年法律第16号)は2014年4月2日に公布され,同年7月1日に施行された。
本法律は,地下水を含む循環する水が「国民共有の貴重な財産であり,公共性の高いもの」であることを謳い,全ての国民がその恵沢を将来にわたって享受できる環境を確保することなど五つの基本理念を掲げている。
今回成立した水循環基本法は,超党派の「水制度改革議員連盟」が議員立法として法案を策定したものであり,いわゆる「理念法」と呼ばれるものであるが,地下水を含む循環する水が初めて法的に位置付けられることになった。特に地下水については,規制法としてのいわゆる「用水二法」を除いて,地下水政策全般についての理念やその方向性を定める法律が存在していなかったなかで,その法的根拠ができたことは画期的である。また,従来の水行政における省庁間の縦割り行政の弊害を打破し,関係行政機関の総合調整機能を持たせた「水循環政策本部」を内閣府に設置し,「水循環基本法」とそれに基づく「水循環基本計画」という二つの大きな枠組みから構成されていることも本法律の特徴として挙げることができる。今後は,本法律に基づいて,国,地方公共団体,事業者,民間の団体など関係者相互の連携ならびに協力により,わが国における水行政が進められることになる。
本法律の制定を受けて、「水循環基本計画原案」が2015年2月5日に公表された。この中で、本セッションに係わる事項として、「災害への対応」、「危機的な渇水への対応」、「地球温暖化への対応」が記載されている。「災害への対応」については、「大規模災害時に、国民生活や社会経済活動に最低限必要な水供給や排水処理が確保できるよう、水インフラの災害を最小限に抑えるための耐震化等の推進や業務(事業)継続計画(BCP)の策定とその実施等の取組を推進する。」としている。また、「危機的な渇水への対応」として、「地域の特性と実情を十分にふまえつつ、必要に応じて、流域を基本単位として、危機的な渇水への取組を推進するための体制を整備するとともに、広域的な連携・調整・応援など需要側・供給側の影響の段階に応じた事前措置や渇水時の対応措置について、段階的かつ柔軟に検討を進め、取組を推進するよう努めることとする。」としている。さらに、「地球温暖化への対応」については、「健全な水循環の維持又は回復のために、二酸化炭素等温室効果ガスの削減を中心とした緩和策とともに、温暖化に伴う様々な影響への適応策を推進する。」としている。これらはいずれも環境災害に対する施策の方向性を示したものであり、具体的な対応策やその内容は、今後個々の災害を対象として検討されることになる。
「水循環基本法」あるいは「水循環基本計画原案」において強調されている点は、「流域連携の推進」と「水循環政策の推進に必要な調査の実施」及び「健全な水循環に関する教育の推進」である。流域連携の推進は、水循環の基本単位は「流域」であるとの認識に基づくものであり、例えば「危機的な渇水への対応」では、「渇水対応協議会」を必要に応じて設置するとしているが、この協議会は流域連携の一環として、流域を基本単位とすることを旨としている。すなわち、水循環の観点からは、流域を基本単位とした広域連携の必要性が要求されるといえる。また、調査・教育については、現象の実態把握の必要性と現場や体験を通じた生きた教育の必要性が謳われている。
日本水文科学会では、3.11の福島第一原子力発電所の事故による汚染水問題について、「福島第一原子力発電所の汚染水問題に関する声明」と題する声明文を2013年10月31日に発した。また、2014年のJpGU「災害セッション」において、当学会からの報告として「水文科学会は東日本大震災にどう向き合っていくのか」(2014, U08-08)を発表した。これらの中で、特に主張した点は、3.11に係わる環境災害の問題解決には、正確な現地調査の必要性と観測データの蓄積による科学的な知見に基づいた対策を策定し、検討することの重要性であった。こうした当学会の方針姿勢は、今回成立した「水循環基本法」とそれに基づく「水循環基本計画原案」の骨子とも対応しており、法的に初めて位置付けられた「水循環」を研究対象とし、社会のための科学を目指す学会として更なる前進を期したい。
なお、大規模災害発生時における初動体制については、日本水文科学会企画委員会による「災害時緊急調査補助金募集(通年)」制度があり、複数の学協会で連携して実施した実績には、本学会員が複数参加した日本地下水学会と水文・水資源学会との合同調査団による「東日本大震災対応地下水調査研究」があることを付記しておく。