日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS32] 地震活動

2015年5月26日(火) 14:15 〜 16:00 A04 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*林 能成(関西大学社会安全学部)、座長:中野 優(独立行政法人海洋研究開発機構)、千葉 慶太(防災科学技術研究所)

15:45 〜 15:48

[SSS32-P09] Matched Filter Methodによる群発地震解析の試み ~飛騨山脈の群発地震活動の例~

ポスター講演3分口頭発表枠

*大見 士朗1 (1.京都大学防災研究所)

キーワード:群発地震, 自動処理, 飛騨山脈, Matched Filter Method

§はじめに:
岐阜県と長野県の県境に位置する飛騨山脈では,従前より微小地震活動が活発であり,しばしば群発地震活動が発生する.従来は,地震活動の特徴の報告の際には,検測者の個別チェックを経たカタログを使用するのが常套手段であったが,昨今の観測点数の増加および熟達した検測者の減少により,特に速報的な報告を要する際にはそれが次第に困難となりつつある.そのため,本報告では群発地震の自動処理手法としてMatched Filter Method(MFM)を試験的に実装し,飛騨山脈南部の群発地震活動を対象としてこの手法の有用性を検証する.

§MFMによる自動処理の概要:
始めに,MFMで使用するためのテンプレートとなる地震波形を用意する.ここでは,飛騨山脈南部近傍の岐阜側及び長野側の観測点10点程度を選び,3成分波形データから適宜テンプレート地震波形を作成した.テンプレート地震は手動検測により震源決定を行い,P波・S波の到着時刻,最大振幅等の情報を波形とともに利用する.別途運用中の旧来の自動処理システムの結果を参照しながら,MFMで検知できていない地震活動が発生した際にはその地震活動に適用できる新規のテンプレートを適宜手動で作成する.
 1時間ごとの準実時間処理の最初に,テンプレート地震の波形と,連続収録された地動波形の相関係数の時系列CC(t)を計算することにより,イベントの検出を行う. CC(t)の中で,相関係数がある閾値min_cceを越えるものについて,同様の波形が出現したと考える.この操作をすべての観測点・成分の波形に対して行った後,すべてのCC(t)を合算する.この合算値の標準偏差を求め,合算値を標準偏差と総成分数で割った時系列データをNetwork Correlation Coefficient (NCC)と定義する.NCCが一定の閾値を超えると,イベントが発生したと判断する.ここでは,min_cceを0.4とし,また,NCCが8.0を超えるとイベントが発生したと判断した.もしも,テンプレート地震と検出されたイベントが全く同じ位置で発生しているのであれば,NCCが最大値を取る時刻と,各CC(t)が最大値を取る時刻は一致するはずであるが,一般にはそうはならない.これらの時刻の差を,検出されたイベントの各観測点での走時の補正値として使用することで検出されたイベントの走時データを構築する.また,CC(t)計算時に,テンプレート地震と連続波形データの振幅比の時系列も保存しており,これを用いて検出されたイベントの最大振幅の近似値を算出し,マグニチュードの算出に使用する.これらの情報を用いて,過去1時間の連続データ中に検出されたイベントの震源決定を個別に行う.

§結果と考察:
最初に,MFMによる自動震源決定結果と手動の再検測結果を2013年4月から10月に飛騨山脈南部で現地有感を記録した23個の地震を用いて比較した.その結果,これら23個の地震の再検測による震源移動量は,震央については最大2.8km平均0.6km,深さについては最大0.8km平均0.36kmであった.また,マグニチュードについては両者の差が0.4になったもの1個,同0.3が2個のほかは,すべて差が0.2以下の値に収まった.さらに震央位置の変化が小さく高精度に震源が決定できたのは,使用した10点程度の観測点のうち,CC(t)がmin_cceを超える観測点数が60%程度以上になる場合であることも判明した.
 次に,飛騨山脈南部穂高岳近傍の群発地震活動が活発であった2013年10月8日20:00から15分間のデータを用いて,同地域のMFMおよび従来のイベント検出手法であるSTA/LTA法を,公式カタログである気象庁カタログと比較したところ,気象庁カタログに記載されたイベントは18個であったのに対し,STA/LTA法による検出数は11個,MFMによる検出数は68個であった.試験期間とした2013年4月から2013年10月末までのデータでは,MFMによる検出数は約3000個,そのうち比較的高精度に震源を決定できた地震は約800個であり,同期間の気象庁カタログに記載された地震は約550個であった.
 このように,MFMによる自動震源決定結果を速報値として使用する価値は十分に高いものと考えられる.速報として本手法を用いる場合の欠点としては,テンプレート地震を設定していない地域で発生したイベントには,原理上対処できないという点があげられる.そのような地域にあらたに地震活動が発生した場合には,手動で新たなテンプレート地震を導入する手間を要する.しかしながらその点を差し引いても,MFMは今回のような比較的狭い地域に地震活動が局在化するようなケースでは,有効に機能することが期待される.