日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-QR 第四紀学

[H-QR23] ヒト-環境系の時系列ダイナミクス

2015年5月24日(日) 11:00 〜 12:45 101A (1F)

コンビーナ:*宮内 崇裕(千葉大学大学院理学研究科地球生命圏科学専攻地球科学コース)、吾妻 崇(独立行政法人産業技術総合研究所)、宮地 良典(産業技術総合研究所)、座長:宮地 良典(産業技術総合研究所)、吾妻 崇(独立行政法人産業技術総合研究所)

11:30 〜 11:45

[HQR23-06] 屋久島北東部,小瀬田海岸付近に認められる7.3ka鬼界カルデラ噴火津波の痕跡の成因と保存過程に関する仮説

*七山 太1中川 正二郎2佐々木 洋之2面 将道2渡辺 和明1成尾 英仁3 (1.産業技術総合研究所、2.屋久島地学同好会、3.武岡台高校)

キーワード:津波痕跡, 7.3 ka 鬼界カルデラ噴火津波, 幸屋火砕流, 小瀬田海岸, 屋久島, 保存過程

約7250年前(7.3ka)の鬼界カルデラ噴火時に,幸屋火砕流に先駆けて津波が発生し屋久島を襲った可能性は複数の研究者によって既に指摘されていた(例えば,Maeno and Imamura, 2007).しかし,その明確な証拠は報告されてこなかった.我々は,過去5年間にわたって鬼界カルデラ噴火津波の痕跡を残している可能性がある屋久島北?東部において検討を行ってきた.宮浦川河口付近には,縄文海進最盛期後に離水した海成の完新世段丘が存在する.この離水面の高度は,GPSスタティックによる現地観測により標高9.7mであることが確認された.しかも段丘堆積物は海進期に生じたエスチュアリー成堆積物であり,その構成物は鬼界カルデラ起源の火砕物のリワークからなる(森脇,2006).よってその離水時期は7.3ka以降であり,その後も海進が継続していたことを意味している.ここでは調査地域の高海面期を,最も標高の高い離水サンゴ礁の年代値から6ka,その海面高度を標高9.7mと仮定して議論を進める.
 小瀬田海岸女川河口付近の採石場跡の大規模露頭に認められる完新世の海成堆積物については,森脇(2006)による先駆的な報告がある.この報告によれば,“女川露頭で認められる海浜礫層にはK-Ahの火砕物が挟在されることから,火砕物の堆積した直後にこの波食ベンチは離水した.”と記述されている.我々は森脇(2006)の記載した女川露頭の再検討を行って,別の解釈を行った.先ず,基底の離水した波食ベンチ(WB-4)については,7.3ka以前には既に陸化していたと考えている.この付近に分布する火砕流堆積物基底の最も低い標高が8.4mであることからも,7.3kaの海面高度はこれ以下であり,その後も1?2m程海進が継続していたと理解される.さらに,波食ベンチと火砕流堆積物の間には層厚30cmに達する女川河口に分布する不淘汰な亜円礫の砂礫に酷似した基質支持の砂礫層が認められる.さらに,火砕流堆積物はリワーク堆積物を挟み層厚2mに達する海浜礫層に覆われる.この地域の大潮時の潮差は約1.5mであり,この礫層の上面高度は11.0mに達することから,この海浜礫層は高海面期に堆積し,その後離水して現地形として保存されたと推測される.ゆえに,7.3kaに火砕流が小瀬田海岸に到達する以前に,女川河口に溜まっていた砂礫が噴火津波によって浸食され, “砂礫型土石流”様の層流状態の流れが発生し,短時間に波食ベンチ上に再堆積した可能性が示唆される.
 今回,新たに椨川付近の民家裏の露頭を観察する機会を得た.この地点の波食ベンチの標高は11.5mと女川露頭よりも高い.波食ベンチ上には,層厚90cmに達する乱流状態から堆積した2つのフローユニットからなる含礫砂層が層厚20cmの火砕流堆積物に覆われて堆積している.その基底部には浸食によって生じたチャネル構造が観察される.現在の小瀬田海岸は岩礁と円盤状の中?大礫からなる礫浜からなる.その一方で,露頭の斜面上方には中期更新世の海浜?沖浜成砂礫層である椨川層の露頭が点在する.我々は,椨川露頭の含礫砂層の成因として,当時椨川層が露出していた崖を噴火津波が遡上して浸食し,その戻り流れによって砂礫がもたらされたと考えている.
 これまで屋久島北?東部の海岸域においては,鬼界カルデラ噴火津波の痕跡は明確では無かった.その理由は 3点あると考えている.(1)小瀬田海岸は,7.3kaから既に礫浜であり,砂礫が海岸から遠距離まで運ばれにくかった.(2)後続する火砕流の遡上によって,津波堆積物は浸食され,これに取り込まれた.(3)7.3ka以降の更なる海面上昇により,標高9.7m以下の多くの痕跡は浸食された.
<引用文献>Maeno, F. and Imamura, F., 2007, Geophysical Research Letters, 34; 森脇 広,2006,南太平洋海域調査研究報告,46,58 -64.