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[MIS34-04] 中部日本の完新世石筍の酸素同位体に記録された数百年周期
石筍酸素同位体比は洞窟涵養地での降水同位体比を通じて過去の気候条件を記録する。中国と日本における研究は石筍酸素同位体がアジアモンスーンの強弱を反映していると示してきた。私たちは,中部日本の2箇所で採集した石筍のU-Th年代と酸素同位体比を測定し,そこに顕著な周期性を確認したので報告する。岐阜県郡上市で採集した石筍OT02の先端5.3 cmは2 kaから8.5 kaに沈殿したものである。この部分の酸素同位体比は9回の増減を示す。増減の時間間隔はほぼ一定であり,スペクトル解析で判定された約650年の周期は放射性炭素から提示された太陽活動の周期と符合する。値の増減の原因が気温変化に求められる可能性は,OT02の酸素同位体比と太陽活動の位相とずれとは整合的ではない。想定される寒冷期には酸素同位体比が低くなるのである。したがって,OT02の酸素同位体比は降水の酸素同位体比の変化に求められるだろう。参考資料として大垣市で採集した雨水の同位体比は冬季に低いという明瞭な季節変化を示す。これは日本海からの冬の水蒸気塊が中部地方に入る前に顕著なレイリー分別効果を受けるためであろう。すなわち,OT02の記録は酸素同位体比が低い冬の降水が占める割合の変化であると考えられ,寒冷期に増加し,石筍同位体比を低下させる。同様の650年周期は三重県大台町の完新世記録にも現れる。これは,小氷期・中世温暖期といった歴史記録に認識出来る寒暖の周期とも一致する。この周期的変動は少なくとも8 kaまで遡れるのかもしれない。