日本地球惑星科学連合2015年大会

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口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS21] 惑星科学

2015年5月25日(月) 09:00 〜 10:45 A02 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*黒澤 耕介(千葉工業大学 惑星探査研究センター)、濱野 景子(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、座長:濱野 景子(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、黒澤 耕介(千葉工業大学 惑星探査研究センター)

09:45 〜 10:00

[PPS21-30] 地球型惑星が持つ水量が惑星表層環境に与える影響の検討:高圧氷と炭素循環

*中山 陽史1阿部 豊1 (1.東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)

キーワード:炭素循環, 海洋底風化, 高圧氷, 二酸化炭素, 地球型惑星, 系外惑星

ハビタブルゾーンと呼ばれる、惑星表面に液体の水を保持できる軌道領域に数wt%のH2Oを持つ地球型惑星の存在が理論的に予測されている[Raymond et al., 2004]。惑星に水が供給されるプロセスの多様性を考慮すると、系外惑星系の地球型惑星は様々な水量をもちうる。本研究では、地球のように部分的な海洋を持つ惑星を部分海惑星、全球が海洋で覆われた惑星を海惑星と呼び、水量が異なる場合の表層環境を考える。表層環境を決める重要な要因として、CO2に着目する。
 全球的な炭素循環は地表面温度を安定化させる気候調節メカニズムである。炭素循環の主要プロセスである風化作用として, 大陸風化と海洋地殻で生じる海洋底風化が存在する。地球では、大陸風化による負のフィードバックが働くことで低いCO2分圧に保たれている[Walker et al., 1981]。しかし、地球と同じ部分海惑星でも大陸比の違いにより、大陸風化効率は大きく変わりうる[Tajika and Matsui, 1993]。一方、海洋底風化の理解はまだ十分でなく、pH[Caldeira, 1995]、熱水循環量[Sleep and Zahnle, 2001]、海底温度[Brady and Gislason, 1997]などの依存性が提案されている。
 海惑星では、大陸風化が存在しないため、海洋底風化が重要となる。また、惑星が持つ水量の増加は大気 CO2量に大きく影響を及ぼすと考えられる。水量の増加に伴う海底温度上昇によって、海洋底風化が効率的に働くことが予測される。一方、水量が多いことは揮発性物質の供給が多いことと考えられるから、惑星が持つ総炭素量も多いと予測される。これは、脱ガス率を増加させ、大気中のCO2量を増大させる。つまり、海惑星の大気CO2量はこれらの競合で決まると考えられる。さらに水量が増加すると、海底に高圧氷が形成する可能性が指摘されている[Leger et al., 2004]。高圧氷が形成された場合、一般には海洋底風化が機能せず、大気中のCO2量は高くなると考えられる。しかし、CO2量の増加により海底温度が上昇すると、形成した高圧氷が消滅してしまう可能性がある。そのような場合に、どの程度の大気CO2量を持つかは明らかでない。
 惑星の保持する水量は、炭素循環の主要プロセスである風化作用に影響を与え、大気中のCO2量を変えうる。本研究では、炭素循環と高圧氷に着目し、地球型惑星が保持する表面水量と大気CO2量の関係を検討する。特に、部分海惑星と海惑星とで、大気CO2量はどれだけ異なるかに着目する。
 地球の炭素循環モデル[Tajika and Matsui, 1992]に、新たに海洋底風化を付け加えたモデルを構築した。脱ガス率は惑星の炭素量に依存するとした。炭素も水と同様に惑星に供給されたと仮定し、水量に合わせて炭素量も増加させている。部分海惑星では大陸比を、海惑星では海洋水量をそれぞれパラメータとし、脱ガス率と再ガス率が釣り合う平衡状態における大気CO2量を求めた。また, 高圧氷形成による炭素循環への影響も考慮している。
 部分海惑星では、大陸比が0.1以上では大陸風化が主体となり、海洋底風化は大きく影響しないことが分かった。脱ガス率を現在の地球の5倍にしても、30P*(P*は現在の地球の大気CO2量を表す)以下の低い大気CO2量に保たれる。海惑星では、海洋水量の増加は海洋底風化効率の増大に比べ、脱ガス率増加に大きく寄与することが分かった。海洋底風化が最も効率的に働く場合でも、海洋水量の増加に伴って大気CO2量は増加し、〜1000 P*の高いCO2分圧を持つ。また、海底に高圧氷が形成された場合、高圧氷形成(海洋底風化消滅)と高圧氷消滅(海洋底風化再開)の振動を示すと考えられる。高圧氷形成条件はその振動の中で最も低い大気CO2量を表している。120地球海洋水量以上では高圧氷が形成され、大気CO2量は急激に増加する。これらの結果は大陸風化主体の部分海惑星と海惑星では、保持する大気CO2量は大きく異なることを示唆する。そして、地球型惑星が持つ水量によって、大気CO2量を決めるプロセスが変化し、表層環境が大きく変わることを示唆する。