日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC48] 火山防災の基礎と応用

2015年5月24日(日) 11:00 〜 11:45 A05 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*萬年 一剛(神奈川県温泉地学研究所)、宝田 晋治(産業技術総合研究所地質調査総合センター)、藤田 英輔(防災科学技術研究所観測・予測研究領域 地震・火山防災研究ユニット)、佐々木 寿(アジア航測株式会社)、座長:萬年 一剛(神奈川県温泉地学研究所)

11:36 〜 11:39

[SVC48-P03] カメルーン共和国マヌン湖の詳細湖底地形と1984に起きた湖水爆発に関する新解釈

ポスター講演3分口頭発表枠

*大場 武1荻沼 優1佐伯 和人2I Issa3A Fouepe3R Ntchantcho3G Tanyileke3J V Hell3 (1.東海大学理学部化学科、2.大阪大学大学院理学研究科宇宙地球科学専攻、3.カメルーン国立地質鉱物資源研究所)

キーワード:湖水爆発, カメルーン, マヌン湖, CO2, 湖底地形

アフリカ中央部カメルーン共和国の北西部にあるマヌン湖では,1984年8月に湖水からCO2が爆発的に放出し,近隣住民37名が犠牲になった.湖水からCO2が爆発的に脱ガスする現象は湖水爆発と呼ばれている.Sigurdsson et al (1987)はカメルーン政府の要請を受け1985年2月に現地調査を行った.その結果,湖の東岸に湖水が打ち上げられた跡と東岸内壁に崖崩れの跡を発見した.またマヌン湖の深層水に高濃度のCO2を検出した.これらの事実から,東岸内壁の崖崩れで発生した土砂が深層のCO2に富む湖水を巻き上げて湖水爆発につながったと結論した.一方で,湖水爆発は溶存CO2濃度が飽和に達し自然に発生する可能性も指摘されている(Kusakabe et al 2008).マヌン湖の湖底には湖水爆発の原因を探る上で重要な痕跡が残されていると思われる.本研究では,マヌン湖でマルチビームソナー探査を行い詳細な地形を明らかにした.得られた湖底詳細地形図に,湖水爆発が先で,崖崩れが後であることを示唆する地形がありSigurdsson et al (1987)のモデルを覆す結果となった.これらの情報から,マヌン湖の成因と湖水爆発の原因について再考察を行う.

水深測量
マルチビームソナーは扇子のように広がった指向性の強い200~400kHzの超音波を湖底に向け送信し,反射波を音波アレイセンサーで受信する.このシステムを湖面上で水平方向に移動させることにより,湖底の地形を精度よく走査することができる.本研究ではR2Sonic社のSonic2022を使用した.観測システムは,音波の送受信部,GPS,船の動揺を感知するジャイロ,これらのデータを統括するコントローラーとノートPC,電源供給のエンジン発電機から構成される.すべてのシステムを5人乗りのゴムボートに取り付け,2~3名のオペレーターが乗船し観測を行った.観測は2014年10月31日から11月4日にかけて実施した.

結果・考察
マルチビームソナー観測により,±30 cmの精度で湖底の起伏を観測することに成功した.マヌン湖は東西に延びた形をしており,西,中央,東の3つの盆地で構成されていることが確認された.西と中央の盆地はそれぞれ深度が46m,56mで,直径約145m,134mの火口跡と推測される.中央盆地の北岸内壁は垂直に切り立っているが,西盆地の内壁は大部分が浸食されているので,中央盆地の形成は西盆地の形成よりも新しいと思われる.東盆地は深度が100mに達し東西360m南北290mの楕円形をしている.東盆地の南部内壁は傾斜がほぼ90度の断崖となっている.東盆地の内壁の形は直径がそれぞれ290m,220mの二つの真円を少し東西方向にずらして重ねると一致するので,二回の大きな爆発的噴火により形成されたのかもしれない.
東盆地の湖底はほぼ平坦であるが二つの窪みが見つかった.一つは東岸の内壁直下にあり,もう一つは南部の内壁直下にある.二つの窪みの直径は40m程度でおよそ1~2m周囲の平坦な湖底から低くなっている.さらにこれらの窪みの近くには崖崩れの跡と思われる堆積が見つかった.マヌン湖のすべての火口内壁の直下には,この二か所以外に崖崩れの痕跡は見られなかった.
窪みと崖崩れの跡が近接して共存していることは湖水爆発のメカニズムの推定に示唆を与える.仮説として東岸湖底の窪みはCO2に富む流体の出口であり,流体の放出の結果土砂が排除されて窪みが発生したとする.1984年の湖水爆発の前に湖水はCO2の溶解について飽和に近づいていたと思われる.窪みから放出された流体は湖水で希釈されるので,最初に東岸の窪みの直上でCO2の脱ガスが開始し,湖水爆発を引き起こした可能性がある.その結果水しぶきが東岸を打ち付け,がけ崩れが発生した.もし崖崩れが湖水爆発の引き金であったなら,窪みと崖崩れが近接して共存していることは説明できない.東盆地の南岸には別の窪みと崖崩れの跡がある.これも湖水爆発の名残だとしたら,1984年以前にも別の湖水爆発が起きていたことになる.