18:15 〜 19:30
[SSS26-P08] 立山火山下における散乱減衰と内部減衰の推定
キーワード:立山火山, 散乱減衰, 内部減衰, マルチタイムウィンドウ法
はじめに
立山火山(弥陀ヶ原火山)は、飛騨山脈立山連峰(富山県南東部)に存在する活火山である。現在のこの火山の活動は水蒸気、火山性ガスの噴出などは認められるものの比較的静穏である。また、気象庁によると、この火山において溶岩の噴出を伴った噴火活動は有史以来確認されていない。立山火山あるいは飛騨山脈を対象として行われた研究は過去にいくつかあり、その1つであるKatsumata et al. (1995)では臨時の観測点群を飛騨山脈の北部に並べ、P波のコーダ部分を使用することで減衰領域の推定を試みている。この研究の結果、立山火山近傍の槍ヶ岳、乗鞍岳、焼岳の地下5 km~15 km付近に強減衰領域の存在が示唆され、また同時に低速度領域、低密度領域の存在も示唆されている。岩田ほか(2014)は、二重スペクトル比の形状の比較から減衰領域の推定を行い、立山火山の南あるいは南東に南北に細長い形状の強減衰領域が存在すること、そのQ値の強さはおおよそ50~200程度であることを示した。
地震波の減衰は、散乱減衰と内部減衰の2つに大別することができる。散乱減衰は地球内部の不均質性によって地震波が散乱する現象である。一方、内部減衰は、地震波動のエネルギーが摩擦などによって主として熱エネルギーに転化する現象である。火山地帯では周囲よりも地震波速度が遅く不均質であるマグマだまりの影響などにより散乱減衰、内部減衰がともに強くなることが知られている。本研究では立山火山周辺を対象として比較的静穏な火山地帯の局所的な地域における散乱減衰、内部減衰の推定を行う。
手法・データ
散乱減衰と内部減衰が地震波形に与える相対的な寄与は時間経過とともに変化する。散乱減衰の場合、波が媒質中の散乱体によって散乱されるために着震時が遅れるとともに初動が弱くなり、コーダ波が形成される。そのため震源から出た地震波のエネルギーの一部がコーダ波に分配され、直達波の振幅は減衰するが、波のエネルギーが広い時間範囲に分布するだけで、理想的な媒質の場合には、無限時間分を合計した地震波動のエネルギーが失われることはない。一方、内部減衰は、地震波動のエネルギーが熱エネルギーなどに転化されるので、地震波動のエネルギーは無限時間分積算しても失われる。
散乱減衰パラメタと内部減衰パラメタの同時推定は、複数のタイムウィンドウのエネルギー密度の積分を計算するMLTW(Multiple Lapse Time Window)法を用いて行われている(e.g. Fehler et al., 1992; Hoshiba, 1993; Carcole and Sato, 2009)。本研究ではMLTW法を参考に、地震波動のエネルギー積分の値を輻射伝達理論の近似解析解(Paasschens, 1997)のものと比較し、観測値をもっともよく説明する散乱減衰、内部減衰を求める。
解析対象とした地震は、2012年1月から2013年12月の間に発生した、立山火山からの震央距離が70 km~140 km、M 2.5以上、震源深さ30 km以浅のものである。ただし、使用観測点でP波、S波の主要部分のS/N比が十分大きい地震のみを解析に使用した。地震波形は立山近傍に位置する5つのHi-net観測点で記録されたものを使用した。波形には1-2, 2-4, 4-8, 8-16 Hzのバンドパスフィルタをかけたのちに、三成分の二乗平均を取り、S波到達時から複数のタイムウィンドウでエネルギー積分を行い、規格化した。Hoshiba (1993) や Carcole and Sato (2009) ではタイムウィンドウはS波到達時から15秒区切りで3つ取られている。本研究では波形を考慮してタイムウィンドウの取り方を変え、S波到達時の誤差の影響に関しても重ねて検討し、散乱減衰と内部減衰を推定する。
謝辞
本研究では防災科学技術研究所のHi-net高感度地震観測網の波形データおよび気象庁の一元化震源データを使用しました。ここに記して感謝申し上げます。
立山火山(弥陀ヶ原火山)は、飛騨山脈立山連峰(富山県南東部)に存在する活火山である。現在のこの火山の活動は水蒸気、火山性ガスの噴出などは認められるものの比較的静穏である。また、気象庁によると、この火山において溶岩の噴出を伴った噴火活動は有史以来確認されていない。立山火山あるいは飛騨山脈を対象として行われた研究は過去にいくつかあり、その1つであるKatsumata et al. (1995)では臨時の観測点群を飛騨山脈の北部に並べ、P波のコーダ部分を使用することで減衰領域の推定を試みている。この研究の結果、立山火山近傍の槍ヶ岳、乗鞍岳、焼岳の地下5 km~15 km付近に強減衰領域の存在が示唆され、また同時に低速度領域、低密度領域の存在も示唆されている。岩田ほか(2014)は、二重スペクトル比の形状の比較から減衰領域の推定を行い、立山火山の南あるいは南東に南北に細長い形状の強減衰領域が存在すること、そのQ値の強さはおおよそ50~200程度であることを示した。
地震波の減衰は、散乱減衰と内部減衰の2つに大別することができる。散乱減衰は地球内部の不均質性によって地震波が散乱する現象である。一方、内部減衰は、地震波動のエネルギーが摩擦などによって主として熱エネルギーに転化する現象である。火山地帯では周囲よりも地震波速度が遅く不均質であるマグマだまりの影響などにより散乱減衰、内部減衰がともに強くなることが知られている。本研究では立山火山周辺を対象として比較的静穏な火山地帯の局所的な地域における散乱減衰、内部減衰の推定を行う。
手法・データ
散乱減衰と内部減衰が地震波形に与える相対的な寄与は時間経過とともに変化する。散乱減衰の場合、波が媒質中の散乱体によって散乱されるために着震時が遅れるとともに初動が弱くなり、コーダ波が形成される。そのため震源から出た地震波のエネルギーの一部がコーダ波に分配され、直達波の振幅は減衰するが、波のエネルギーが広い時間範囲に分布するだけで、理想的な媒質の場合には、無限時間分を合計した地震波動のエネルギーが失われることはない。一方、内部減衰は、地震波動のエネルギーが熱エネルギーなどに転化されるので、地震波動のエネルギーは無限時間分積算しても失われる。
散乱減衰パラメタと内部減衰パラメタの同時推定は、複数のタイムウィンドウのエネルギー密度の積分を計算するMLTW(Multiple Lapse Time Window)法を用いて行われている(e.g. Fehler et al., 1992; Hoshiba, 1993; Carcole and Sato, 2009)。本研究ではMLTW法を参考に、地震波動のエネルギー積分の値を輻射伝達理論の近似解析解(Paasschens, 1997)のものと比較し、観測値をもっともよく説明する散乱減衰、内部減衰を求める。
解析対象とした地震は、2012年1月から2013年12月の間に発生した、立山火山からの震央距離が70 km~140 km、M 2.5以上、震源深さ30 km以浅のものである。ただし、使用観測点でP波、S波の主要部分のS/N比が十分大きい地震のみを解析に使用した。地震波形は立山近傍に位置する5つのHi-net観測点で記録されたものを使用した。波形には1-2, 2-4, 4-8, 8-16 Hzのバンドパスフィルタをかけたのちに、三成分の二乗平均を取り、S波到達時から複数のタイムウィンドウでエネルギー積分を行い、規格化した。Hoshiba (1993) や Carcole and Sato (2009) ではタイムウィンドウはS波到達時から15秒区切りで3つ取られている。本研究では波形を考慮してタイムウィンドウの取り方を変え、S波到達時の誤差の影響に関しても重ねて検討し、散乱減衰と内部減衰を推定する。
謝辞
本研究では防災科学技術研究所のHi-net高感度地震観測網の波形データおよび気象庁の一元化震源データを使用しました。ここに記して感謝申し上げます。