日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-RD 資源・鉱床・資源探査

[S-RD41] 資源地質学の新展開:鉱化流体の起源と進化

2015年5月25日(月) 09:00 〜 10:45 106 (1F)

コンビーナ:*実松 健造(独立行政法人 産業技術総合研究所 地圏資源環境研究部門 鉱物資源研究グループ)、野崎 達生(海洋研究開発機構地球内部ダイナミクス領域)、大竹 翼(北海道大学大学院工学研究院 環境循環システム部門)、高橋 亮平(秋田大学国際資源学部)、座長:実松 健造(独立行政法人 産業技術総合研究所 地圏資源環境研究部門 鉱物資源研究グループ)、野崎 達生(海洋研究開発機構海底資源研究開発センター)

09:00 〜 09:25

[SRD41-01] 放射光による単一流体包有物の化学分析: 熱水鉱床への応用

*林 謙一郎1 (1.筑波大学生命環境系)

キーワード:流体包有物, 放射光蛍光X線法, 化学分析, 鉱化流体

鉱床生成に関与した熱水溶液の化学組成の情報は、鉱液の起源とその進化、重金属の溶存状態や運搬機構、鉱液から鉱石鉱物の沈殿機構などを議論する際には基礎的な資料として重要である。鉱液の組成として、流体包有物の塩濃度は従来から報告されてきたが、重金属の組成の情報は限られている。近年微小部分析技術の発展により単一流体包有物の組成分析値が報告されるようになった。ここでは放射光蛍光X線法(SXRF)による単一流体包有物の化学分析の試みを報告する。
茨城県高取鉱床における熱水系の変遷について議論するために、石英中に包有される流体包有物の重金属元素の定量分析を行った。高取鉱床の鉱化は、鉄マンガン重石・蛍石・トパズ・白雲母・リシア雲母が形成された初期ステージ、硫化鉱物・蛍石が形成された中期ステージ、炭酸塩鉱物・錫石が形成された後期ステージ、炭酸塩鉱物・粘土鉱物が晶出す末期の4期のステージに区分される。石英は全ステージにわたって晶出しており、各ステージの石英試料から両面研磨薄片を作成し、流体包有物の産状を詳細に記載した。試料内において、石英結晶にみられる成長縞と一連の擬二次包有物群の交差関係から、一つの結晶内での擬二次包有物群の捕獲順序を正確に決定した。SXRF定量分析の結果、初期ステージの流体にはWが1400〜3700 ppm、Feが4100〜6200 ppm、Mnが1000〜1800 ppm、Cuが1500〜3000 ppm、Znが1800〜2900 ppmと高濃度の重金属が含まれていることがわかった。一方、中後期ステージの流体包有物からWは検出されず、Feが300〜600 ppm、Mnが100〜300 ppm、Cuが50〜100 ppm、Znが50〜100 ppm程度含まれ、鉱化作用の進行につれて重金属濃度は顕著に減少することが明らかとなった。
H2O-NaCl系でCuおよび Znの気/液分配実験を行った。ここでCuは揮発性を有する金属、一方Znは揮発性の低い金属であると考え、両者の気/液分配係数を比較することにより、この問題へのアプローチとした。マグマ近傍の高温熱水系で起こる物理化学的過程を再現するために、650℃までの高温条件で、共存する気相および液相中への金属の分配を求めた。通常のバッチ法によって気相および液相を高温状態で個別にサンプリングする事はこの温度領域では実験的に困難である。従って,気相と液相の共存下で流体包有物を合成し、流体包有物中に取り込まれた溶液を分析することにより共存する液相および気相の組成を求めた。流体包有物の分析はSXRFによって単一流体包有物中に取り込まれた気相および液相中のCuおよびZn濃度を定量分析することにより求めた。その結果、硫黄が存在するとCuの分配係数が1.0を越えることが明らかとなった。斑岩型鉱床に伴われる気相および液相包有は、ここで報告した銅の気/液分配係数物の分析から得られる値とほぼ一致し(log KD = ~1)、天然の現象を実験的に再現することに成功した。この結果は、銅は硫黄と安定な錯体を形成して気相中に選択的に分配するためであると解釈することができる。硫黄との親和性が弱い亜鉛は塩化物錯体として溶存するので液相中に留まる事を示唆している。