日本地球惑星科学連合2015年大会

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セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT31] 環境トレーサビリティー手法の新展開

2015年5月27日(水) 18:15 〜 19:30 コンベンションホール (2F)

コンビーナ:*中野 孝教(大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所)、陀安 一郎(京都大学生態学研究センター)

18:15 〜 19:30

[HTT31-P08] 窒素・酸素安定同位体比からみた東北域河川水の硝酸イオンの起源

*由水 千景1Kicheol SHIN1中野 孝教1奥田 昇1加藤 義和1神松 幸弘2栗田 豊3冨樫 博幸3天野 洋典3陀安 一郎1 (1.総合地球環境学研究所、2.京都大学生態学研究センター、3.東北区水産研究所)

窒素は生物生産の制限因子となりやすい生元素であり,水質汚濁の主要因の一つとされている.そのため,従来から窒素濃度は監視の対象となってきたが,これらの成分は環境中で非保存的に振る舞うため,濃度の変動のみから起源や循環過程を評価することは困難であることが多い.一方,窒素安定同位体比は,その化合物の起源に関する情報を持つと共に,取り込みや窒素固定,硝化,脱窒といった生物駆動の物質代謝を反映することから,窒素動態を明らかにする上で有益な情報を与えうる.
下水処理された生活排水や肥料の窒素安定同位体比が特徴的な値を持つことや,脱窒などの窒素除去過程により系に残留する窒素の安定同位体比が上昇することから,近年,安定同位体手法を用いた窒素汚染の環境診断が注目され始めている.そこで本研究では,岩手・宮城県の372地点で河川水から得られた硝酸イオンの窒素・酸素安定同位体比情報を用いて,河川水の窒素起源や環境について考察を行った.
硝酸イオンの窒素安定同位体比の分布を見ると,都市部や農地で高く,山地で低い傾向にあった.このことは,人為影響の増大とともに窒素同位体比が上昇するという経験則と矛盾しない.まれに山間部でも高い同位体比が認められたが,その上流には畜産場があり,そこから排出される水の,河川水への影響の大きさが示唆された.
硝酸イオンの酸素安定同位体比は,早池峰や栗駒等の山地で高い値が見られ,これらの地域での主要な窒素負荷源が大気降下物(降雪)由来であることが示唆された.また一部の農地では,酸素・窒素ともに同位体比が高く,脱窒が起こっていることが示唆された.